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ネコちゃんの笑顔
【夏木Side】
「お帰りですか!?」
2人が席を立つと、左の席で飲んでいた椎名さんが慌てて駆け寄ってきた。
「ああ、もう大丈夫?」
珍しく、佐々木課長は安心させるような笑みをその顔に浮かべる。
「はい!お陰様で!本当に、本当に、ありがとうございました!!」
もしかしたらさっきのリュートさんより深く、膝におでこが付いちゃうんじゃってくらい一生懸命頭を下げる姿に、課長は優しかったその表情を笑いを堪えるため少しだけ歪めた。
「気になさらないで下さい。この人の無駄な武力はこういう時にしか役に立ちはしないのですから」
高山課長が会社じゃ見せたことのない優しい顔をして、にっこりと微笑む。
「それに、貴方がいらっしゃらなければ狙われていたのは私であったかもしれない。私達こそ、貴方だけを危険な目に合わせてしまって、申し訳ありませんでした」
「そんなっ、そんなことありませんっ!」
「んー、椎名さん、梓、そこはさ」
首を横に振ったり頭を下げたり忙しい2人に、佐々木課長が切って入る。
「守ってくれた祥吾さん、格好良かった!ハート。でいいんじゃねーの?」
「え、…えぇと……ありがとうございました…」
「自分で言わない人なら、もう少し褒めても罰は当たらないのですが」
「なぁんで2人とも素直じゃねーの!」
「ふっ…、ふふふ」
最初に吹き出したのは、リュートさんだった。
それから高山課長、椎名さんが続く。
ネコちゃん3人に可愛く笑われちゃったらさ、タチにはもう、どうにも出来ない訳だ。
「佐々木さん、僕からもお礼を言わせて下さい」
困ったように髪を掻き上げていた佐々木課長に、椎名さんの傍らに立つ赤瀬さんが声を掛けた。
赤瀬さんが?
ローズを救った課長にお礼?
俺はもしかしてマイナスの感情を顔に出してしまったんだろうか。
赤瀬さんは俺に向けて苦笑すると、何故か椎名さんの肩に手のひらを乗せた。
そして、その肩を抱き寄せる。
「佐々木さんのおかげで今宵、運命の相手に出逢うことが出来ました。千尋君を助けてくださったこと、心から感謝致します」
「はっ…?えっ?はっ!?」
下げた頭を上げると、俺に向けてウインクした。
───って、ビックリしたわ!ダンディで様になり過ぎてて、かっこ良すぎるわ赤瀬さん!
大人の余裕、つか、年下の俺に対する嫌味か!
なんてまあ、あの人に限ってそんなことは無いんだろう。
苦手は苦手だけど、悪い人じゃないってことは知ってるし、分かってる。
「あの…、赤瀬さん…。おめでとうございます!」
これ以上格好悪いのもなんだし、俺も潔く頭を下げる。
いや、マジで祝福はするし。
もうリュートさん目当てでは来ない、とか、そういうこと関係無く。
ローズのお客さんにはやっぱり、皆幸せになって欲しいもんな。
「ありがとう、夏木君」
恋のライバルであった筈の俺にお礼を言った赤瀬さんは、その時初めてダンディを崩して、本当に嬉しそうに、少し幼く見える表情でくしゃりと笑った。
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