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僕のローズ
【夏木Side】
店も程よく混んできて、待ちの客も出てきた。
そろそろ部屋に戻るか、と課長達と挨拶を交わしてリュートさんにチェックを頼めば、少し可笑しそうに笑って「もう頂いてます」と返された。
社長か。あの人やっぱり、やること男前だよな。
「佐々木さんと高山さんの分もお会計は済んでおりますよ。オーナーより、皐月くんとローズを守って頂いたお礼として、と纏めてお支払い頂きました。功太の分もついで、だって」
そう続けるとリュートさんは、
「佐々木さん、高山さん。改めてお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました」
カウンターの下に見えなくなるまで、深く深く頭を下げた。
「そんなっ、頭をお上げください!」
焦った様子の高山課長を佐々木課長は可笑しそうに、愛しそうに見つめる。
少しだけ、佐々木課長は高山課長の恋心を弄んでるんじゃ…なんて思ったりもしたけど。
その眼差しを見たら、ああ、この人も本気なんだって。
本当に大切に想ってるんだ、ってことが、気恥ずかしいぐらいに伝わってきた。
広川も、幼児化解けて大人の思考が戻ったら、心配するかもしんないもんな。
大丈夫だって教えてやろう。
「今度いらした時には僕からご馳走させて下さい」
顔を上げたリュートさんは、きらびやかに笑ってた。
社長からロープを持ってくるよう言われた時。
すぐ出せる所に有った梱包用の麻紐を渡した俺に、リュートさんは眉間に皺を寄せて首を横に振ってみせた。
「そんな細紐じゃ許さない…。僕のローズを…馬鹿にしやがって…!」
ジャラリと音をさせて取り出したのは銀色の太めの鎖。それから、南京錠。
「二度とやろうなんて思わないように、思い知らせてやる」
聞いたことのないくらい低い声に、怒りを湛えた震え。
ああ…本当に、彼-椎名さん-が連れ去られる前に帰ることができてよかったと、心から思った。
もしかして少し遅ければ、いや、佐々木課長がその場にいなければ、取り返しの付かない心の傷をリュートさんに負わせてしまったかもしれない。
広川にもそうだ。
それから、もう一人。
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