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最悪ノ出会イ 1

成績優秀。容姿端麗。文武両道。 この三拍子揃った者はそうそうそこらに転がっているものではない。 だがこの田舎町に一人、普通校に不似合いのエリート高校生をしている少年がいた。 彼の名は、九家月人。 すべてが完璧な彼には秘密がある。 それは… 制服姿に身を包んだ少年は、誰もが振り返るほどの美形であった。 光を受けてキラキラと輝くその金色の髪は、 彼が異国の血を引いていることを裏付けている。 長い足は迷いなど一切ない足取りで道を進んでいく。 学校からの一本道、住宅街へ入る曲がり角。 その角に立つ一軒の建物は昭和の香りが漂う時代錯誤な空気を持ってそこに佇んでいた。 今時自動ではない横開きのガラス戸。 飾りといえば赤い看板に白い文字で“たばこ“と書かれた少し錆びているものだけ。 月人はガラス戸から店の中を覗き込んだ。 どこか薄暗い店内は、本がぎっしりと詰まった棚がいくつか並んでいて 人の気配はなかった。 他に客のいないことを確認し、月人はガラガラと音を立てガラス戸を開けた。 この店は、昔は表の看板に偽りなしのたばこ屋であったのだが時代と共に姿を変え、今は古本をメインに取り扱う店。 人の良い老婆が一人で切り盛りし、本だけでなく日用品も取り扱っているご近所密着型のショップだ。 いつもはレジ台という名のちゃぶ台でお茶でも啜っている彼女の姿は今日は見当たらない。 「ばーちゃん?煙草ーー」 奥のレジ台に近付き、声を張り上げようとして思わず小声になる。 月人はこそこそと煙草を購入する必要があった。 それは勿論一応自分が高校生のふりをしているというのもあるのだが、 自分が完璧であるが故に堕落した娯楽に身を落とし込んでいることが許せないのだ。しかし抜けられないのが煙草マジック。 「おーい」 月人はもう一度声をかけておいた。 店と自宅が一体型となっているため、老婆は時々家事などで自宅の方にいることもあるのだが。 レジ台の後ろにある自宅に続く戸は今は閉められている。 「あれ…いつもならすぐ出てくるのに…」 月人は形のいい眉を寄せ、静かな戸を見つめた。 「....具合でも悪いのか?」 老人の一人暮らしだ。 不意に心配になるのだがもしかしたら聞こえなかっただけかもしれない。 やはりもう一度くらい声をかけようとした瞬間、横引きの戸が勢いよく開いた。

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