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最悪ノ出会イ 2
「うるせーよ未成年」
戸の向こうに立っていたのはいつもの老婆ではなく、漆黒の髪を肩に流した眼鏡をかけた青年だった。
黒いジャージ姿の青年は眉間にシワを寄せこちらを見下ろしている。
今にも舌打ちが聞こえてきそうな不機嫌な顔だった。
「う、うるせえってなんだよ!お前誰だ!」
数秒ぽかんとしてしまったがすぐに言い返す。
モデル並みに背が高い!と自負している月人は常に見下ろす側であるため、見上げてものを言う事がなんだか屈辱的に感じた。
それに店員にしては幾ら何でも愛想が悪すぎるのではないか。
「キャンキャンキャンキャンうるせーっつの。
チワワかお前は」
青年は後ろ手で戸を静かに閉めながらそう呟いた。
更に、めんどくせーなー、と呆れたように溜め息をついている。
一方月人は、チワワ…っ!?、と今まで当て嵌められたことのない動物を出され目を見張った。
せめてドーベルマンとかシェパードとか、足が長くてカッコイイ犬に例えて欲しいものだ。
「俺は皇だ。 未成年に売る煙草はねえぞ」
青年は何故かさらっと名乗り、さらっとお引き取り願い、いつも老婆が座っていたレジ台の前に座った。
「いや名前じゃなくてだな…!ばーちゃんはどうしたんだよ!」
「さゆりさんの事か?」
皇と名乗った青年はそう小首を傾げた。
銀縁眼鏡の向こうの瞳は真っ黒く、吸い込まれそうだった。
老婆の名前をさらっと呟いた皇に月人ははっとなった。
「もしかして愛人…」
思わず溢した月人に皇はため息を溢した。
「さゆりさんは俺の恩人だ。
体の具合が良くないらしくてな、娘さんとこ行ってんだ」
代わりに俺が店主、と皇は怠そうに説明した。
月人は、ああそう…、と目を細めた。
「ほら煎餅やるからとっとと帰りな」
皇の言葉に月人は頬をひきつらせた。
「だから未成年じゃねえっての…つーかこれ段ボールじゃん!」
顔の前に差し出された段ボール用紙を奪い取り叫ぶ。
ん?、と皇が眉間にシワを寄せた。
あ、と月人は段ボールを握り締めた。
「へえ…未成年じゃないんだ…見た所高校の制服かと思ったけど?
随分とまあ若作りしていらっしゃる」
皇はまじまじと月人の顔を見ながらそう呟いた。
あ。いやその精神年齢的な意味で、と慌てて溢す月人。
「もしかしてお前が"月人くん"?
さゆりさんが気遣ってたから
どんな儚げ美少年と思いきや...ふーん成る程成る程」
皇は観察するように月人をじろじろと見てくる。
その視線に失礼なやつだとイライラすると同時に妙な恐怖心に苛まれて、思わず目を逸らした。
「…月人くんが欲しいのはこれ?」
やばい、と思い逃げようとした時には既に遅し。
皇は月人の制服のネクタイに触れ、ぐいっと引き寄せた。
手にはいつの間にか月人が愛用している銘柄の煙草があった。
「う..なんで..」
皇は口元に笑みを浮かべて、片眉を上げた。
「俺少し鼻が効くんだよな。
例えば"人じゃないものの匂い"とかも..」
その言葉にさあっと血の気が引いた。
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