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眠レル魔女 4

なかなか夢から抜け出せず、月人は光の中をもがいていた。 これ以上ここにいると危険だ! そんな警告の怒号に、ハッとなり頭を起こした。 一瞬自分が何者なのかわからなかったが チュンチュンと爽やかな鳥の声が聞こえ、そこは皇の部屋だと思い出す。 どうやら寝落ちてしまっていたらしい。 「...はあ..疲れた....」 疲労感に襲われため息をこぼした。 しかしベッドを見下ろすと、そこはもぬけのからになっていて月人は思わず立ち上がった。 「皇!?」 部屋の中を見渡すが彼の姿はない。 全身が粟立つような恐怖感に襲われ、縺れる足を引きずって部屋を飛び出した。 目につくドアを全て開け、階段を駆け下りる。 消えてしまった? そんな予感に泣き出しそうになりながら、無我夢中で店の方へと走っていく。 電気も消え、しんと静まり返った店内にはガラスの破片などが飛び散ったまま誰の姿もない。 「.....っ」 月人は思わずその場に崩れ落ちた。 どこにもいない。 取り残されてしまった。皇は消えてしまった。 「嘘...だろ......」 そんな事実にひたすらひたすら、打ちひしがれて 受け入れられそうにないのに、その現実が重くのしかかってくる。 思わず声をあげて泣きそうになった瞬間、かたりと背後で物音がした。 「....あ?なーにやってんだお前」 気だるそうな声が聞こえ、月人は恐々と振り返った。 ヨレヨレのジャージ姿の皇が、眼鏡をかけ直しながら眉根を寄せている。 月人が何も言えずその顔を穴が開くほど眺めていると皇は可笑しそうに噴き出した。 「なんつー顔してんだよ...面白いからやめろ」 生きている。消えていない。 そのことが脳に伝わった瞬間月人は飛び上がって彼の両肩を鷲掴んだ。 「お...お前ええええええええああああああああぁっぁああ!!!」 「....うるせえよ..近えし」 「うるせえじゃねえよばかぁぁあぁあ!!!!」 皇は嫌そうに顔を背けたが月人はわけもわからず泣きじゃくってしまった。 そのいつも通りの平気そうな顔を見ると腹が立つような、心底ホッとするような わけのわからない感情が滝のように押し寄せてくるのだ。 「はいはいごめんごめん」 「..うう...う」 皇は子どもをなだめるように月人の背中を叩いてくる。 その単調なリズムが妙に心地よくて、なんだか力が抜けていくようだった。 「なんだよ、俺がいなくて寂しかったわけ?」 「.....ん」 自分が思わず頷いてしまったことにも気付かず、 月人は彼の体をぎゅっと抱きしめた。 「......月人?」 彼の生きている体温が腕の中にある。 訳もわからず月人はその真実を噛み締めていて やがてその状況に慣れてきて頭がはっきりしてくると、 月人は恐々と腕の力を緩めて、呆れたような顔でされるがままになっている皇を見下ろした。

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