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解放ト衝動 1
何事もなかったかのように店も元どおりになり、
皇のムカつく態度も、月人の生活もいつも通りに戻った。
魔女と猫の餌を朝から製作し、学校から帰れば掃除にせいを出すような日常が。
超絶完璧イケメンの吸血鬼様に生まれてきたというのに、とても美形と才能の無駄遣いではないだろうか?と思いながらも
前ほど皇に腹をたてることはなくなった。
しかしそれとは別の何かよくわからないそわそわした感じに支配されて
結局腹を立ていつも以上にピカピカに風呂を磨いてしまう月人であった。
「ふう....またこの古い風呂を美しくしてしまった...俺って罪な男..」
大理石のようにピカピカになった浴槽を眺めながらもキメ顔を試みる痛々しい吸血鬼は
時たま夢に見てしまう皇の過去を思い出してはため息をこぼす。
魔界というところは、月人のような不思議生物達にとって憧れのようなものだった。
最上の地。
楽園とも呼ばれ、そこを唯一支配するものが魔女という存在だとしたら
確かに神と等しい存在なのかもしれない。
しかし皇を見ていると、魔女だろうが神だろうが、同じなのかもしれないと思えてしまう。
存在の立ち位置だとか強力な魔法だとか、そんなものではなく
もっと根本的な、例えば心とか。
見てしまった皇の過去を思い出し、
月人は泣きそうになり慌てて首を振って手に持ったままのスポンジを元の場所に戻した。
その瞬間ばちりと指先に何か電流のようなものが走り、思わず手を引っ込める。
「...痛っ...」
呟きながらも手を見るが、特に腫れているわけでも赤くなっているわけでもない。
不思議に思い指先や先ほどまで持っていたスポンジを見るが特に変わったところはなかった。
「なんか最近こう言うの多いな…」
このレベル50の静電気といったような謎の現象は今に始まったことではなかったが、
不気味であることのは間違いない。
「おい月人」
不意に呼ばれ、振り返ると風呂場の入り口に皇が立っていた。
いい加減気配もなく背後を取るのはやめて欲しいものである。
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