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解放ト衝動 2

「なんだその顔」 「元々こういう素敵なフェイスなんですう」 「あっそ。お前さ、解放してやろうか」 皇は腕を組んだまま表情を変えることなくそう問いかけてくる。 解放? 一体何を解放するというのだろう。 意味がわからず、は?、と口を開けた。 「まあ正確にはお前が解放するんだが..」 「何の話?」 「だから、エサやめてやろうかつってんの」 餌の態度ではなかったが突然の言葉に月人は思わず風呂場のガラスドアを掴んだ。 普段通りの日常会話に、そんな衝撃の事実を混ぜられ 何も実感もわかないし意味もわからないのだ。 「は?..何言ってんだ」 「なんだよ、嫌がってたじゃねえか。死ぬとかいってさ」 眼鏡の向こうの目は何の表情も感じられず、 何故だかそれがたまらなく怖くて、嫌だった。 確かに無理矢理主人になれだとか言われ平穏な日常を脅かされ大変遺憾だったし、 最初は出来ることならなるべく関わりたくないと思っていた。 しかし、月人には理解不能であった。 何故?このタイミングで? 月人はガラスドアを掴む力を強めた。 呆れたように皇は肩を竦め、こちらに背を向けて去って行く。 「....っ、待てよ、皇!」 月人は思わず彼を追いかけ、そのジャージの裾を掴んだ。 魔女は不満そうに振り返る。 「やめて、どうすんだ?魔界に帰りたくないんじゃなかったのか」 「んー..まあ、あの時は緊急だったけどちゃんと手順を踏めばどうにでもなるっつうか...」 淡々と話す彼の言葉に気が遠くなるような感覚を覚える。 皇は最初から月人のことを虫ケラ扱いしていた、所詮その程度なのかもしれない。 だけれど仮にも一緒に暮らして、言葉を交わして 情が湧いて、不本意ながら少しでも、 心が通っているような気がしていたのは事実だった。 それ故にずっとこのままの日々が続いていくのかもしれないと思っていたし その事に対しどこか安心のような気持ちを抱いていた。 しかし、それはまるで、 もう要らないと言われているようで。 今までの出来事がフラッシュバックし、裏切られたような気分になってしまい 月人は自分でも驚くほど、大大大ショックを受けていた。 彼の裾から手を離し、俯いてしまう。 わなわなと身体が震え、気付けば足元にパタパタと雫が溢れていた。 「は..?またなんで泣くんだよ...」 さすがに心配そうに皇が肩に触れてくる。 その瞬間月人は頭に血が上り、その手を振り払った。 「..勝手だ、勝手だよお前は...っ! 人の気持ちがわからない鬼魔女!不潔ボケ! 皇の...っ、皇の、大バカ野郎ーーーーーッ!!!」 大声で叫び、バタバタと音を立てて廊下を駆け抜けた。 悲しくて苦しくて、涙が溢れて止まらない。 皇のバカ、バカバカバカ! 心の中でめちゃくちゃに罵りながら、 月人は、そのまま家を飛び出したのだった...。

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