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解放ト衝動 3

一方廊下に取り残された皇は、 頬をひくつかせながら笑みを浮かべた。 「..誰が、人の気持ちがわからないって...?」 怒りと悲しみが入り混じったドス黒い感情に支配されそうになり、慌てて心の川へと感情を流してなかったことにした。 はぁ、と溜息をこぼしてはその場にしゃがみ込む。 人の気持ちがわからないのは魔女がゆえか? いや、そうではないと抗いたい。 そんなことはない、それを証明するためにここへ来たのだ。 しかし、どうしてこう上手くいかないのだろう。 「くそ...どうすりゃいいんだよ..」 自分で蒔いた種とはいえ、危険な目に合わせてしまった。 それは今後もあってはならないことだし、自分はそもそもさゆりの守りたいものを守られるのであれば 誰に何を言われようが1人になろうが知ったことではなかった。 なかったのに..。 文句を言いながらも、自分は喰えない飯を作ったり 部屋の掃除をしたり、泣いたりする そんな姿が思い浮かんで、皇はぐしゃぐしゃと頭を掻いた。 傷付けたくないのに。 どうすればいいのかがわからない。 あんな風に怒らせたかった訳じゃないのに。 「...皇さまぁ」 「ひょあ!?」 不意に耳元でダンディな低音ボイスが聞こえ、皇は思わず飛び上がった。 考え事をしていたせいか全く気配に気付けなかった。 恐る恐る振り返ると、そこには巨大な男がいた。 タキシードの良さを根こそぎ奪う主張の激しい上腕二頭筋と胸筋が狭い廊下をさらに狭苦しくさせ 鋭い眼光は世紀末覇者と思われる程年季の入ったものであり 逆らうこと即ち死を意味するその眼差しに皇は思わず壁に張り付き息を飲んだ。 「...え.....どちらさま....」 「いやだなぁぼくですよう」 「はい....?」 世紀末フェイスと低音ダンディボイスに似合わない舌足らずな喋り方は 著しく世界観が狂っていて、最早自分の頭を疑うほどの衝撃であった。 「シロエですよう!」 「......、う」 皇は瞬きを繰り返し、 その奇天烈な証言と目の前の覇者を見比べた。 「嘘ついてんじゃ、ねーーー!!!!」 「嘘じゃないですよお!」 「全然説得力ねえし!?もふもふは!?つるふかは!?世界観守れよ!?せめて美少年にしろ!!!」 「そんな事言ったってしょうがないじゃないですかぁ気付いたらこうなってたぽいんですう!」 「やめろォォ!その喋り方マジでやめろ!」 皇はひたすらにテンパってしまいながら声を荒げるのだった。 月人にバカと言われるわシロエは巨大化するわ次から次へと忙しい。

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