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第1話
プロローグ
目が覚めても、悪夢は終わっていなかった。
(…う”うっ、べたべたしてて、気持ち悪い……)
僕は変わらず蔓に囚われたままだった。
身体には魔物の粘液や自分の体液がへばりつき、ドロドロに汚れている。
視線を巡らせると、少し離れた所で魔物が目を閉じてじっとしていた。
まるで遊び疲れた子どもが眠っているようだ。
だが身体にゆるく巻き付く蔓は時折、ずりずりと動いては僕を苛む。
「…ンッ……ぁ…っ…」
魔物の毒のせいか、情けないことにそれだけでも身体が疼いて止まなかった。
でも、蔓を振り払って逃げるための体力も気力も、もう残ってなかった。
粉雪のように降り積もる快楽に自我が覆われていくなか、ぼんやりと思う。
(…もしかしたら、もっと早くこうなっていたのかもしれない)
今まで何もなかったのは、運が良かっただけ。
結局のところ、平凡な力しか持たない自分。
脅威をはねのける力のない者は、虫けらのように好き勝手に弄ばれ搾取されるのが、
摂理なのだろう。
(僕だって、あの魔物達を殺してしまった…)
だからこれも、こんな目に遭うのも、し、仕方ない………
「…っ”っ、……ぅ………、…!!ッ」
気配を感じたのだろうか。
魔物がふるふると瞼を持ち上げ、あのぞっとするくらい鮮やかな瞳をのぞかせた。
そして僕が目を覚ましたことを見つけると、楽しそうに唇の端をつり上げ近づいてきた。
(あぁ……あのずっと溺れ続けるような時間が、また始まるのか…)
呼吸が早くなり、体が震える。
(ああ、どうせ喰われるのなら……)
諦めて目を閉じて、僕は早く終わることを願った。
自分はもう、それくらいしかできそうになかったから。
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