10 / 36
10:素質
笑ってはいるけど、なんだか困ったような顔。
……今度はなんだ……。
間抜けな自分の声はスルーして、身構える。
「60分、過ぎちゃいました」
……はあ?
複雑な表情だった。
笑ってるのか困ってるのか、楽しんでるのか、俺には分からない。
だから何だっつーんだ。
もしかして、俺があんなに必死な思いで恥ずかしい台詞言いまくったのに、まさか60分コースが終わったからって『お引き取りください』とか、言い出すんじゃあ……。
ここは完全予約制だ。
俺のあとに予約が入ってるなんて、まあ考えられなくもない話。
……だけど、こんな状態でおあずけだなんて……、男として辛すぎる。
「そんな、物欲しげな顔しないで下さい」
「っ! して、な……ッ」
「……延長、されますか?」
「……え?」
延長……。そんなことも出来るのか。
とりあえず、俺のすぐあとに予約は入っていないらしい。
ある意味よかった、のか……?
……いや、そんなこと、ある訳ない。考えるな。
そういうふうに思うこと自体がおかしい。
自分に、言い聞かせる。
せっかく延長するかって聞いてるんだから、これは逃げるチャンスだ。
とっとと断って、帰ろう。
……そう、俺は確かに思ったのに、口からはすでに、言葉が紡ぎ出されていた。
「えん、ちょう……します」
「承知しました」
熱に浮かされたような顔で呟く俺に、兄ちゃんはとても嬉しそうに笑った。
───……
「っぁ、あ……ッ」
びくびく震える身体を、抑えられない。
四つん這いの体勢にされて、上からのし掛かるようにして熱い舌で耳を舐められた。
くちゅり、粘着質な音が直に聞こえて、鼓膜さえも犯されてる気分だ。
軟骨を甘噛みされて、耳の裏をねっとりと舌が這う。
もうそれだけで、身体がおかしいくらい跳ねて、ぞくぞくする。
作業着とボクサーパンツを膝まで下ろされ、前と耳をいじくり回される。
ほとんど裸の状態で、じゅくじゅくに濡れた竿を扱かれたら、もはや先走りは止まらない。
見る余裕も勇気もないけど、ベッドにまで滴ってるのは確実だろう。
「っあ、ん、んん……ッ」
あいた手で太ももを撫でられると、それにも鳥肌が立って、震える。
そんな俺を嘲笑うように、兄ちゃんは意地悪く耳許で囁く。
「どこも敏感ですね……。こういうこと、よくするんですか?」
「っな、は、初めてに、決まってんだろ……?!」
心外だった。
好きで全身敏感なんじゃないのに。
学生の頃はそれなりにモテたし、女の人としたことはもちろんある。
決して童貞ではない。
でも、相手が男なんて、それこそ今まで想定すらしたことない。
昔から、ほんとはちょっと思ってた。
人より若干、刺激に対して過敏ではあるかな……って。
ともだちにシェアしよう!