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10:素質

 笑ってはいるけど、なんだか困ったような顔。 ……今度はなんだ……。  間抜けな自分の声はスルーして、身構える。 「60分、過ぎちゃいました」 ……はあ?  複雑な表情だった。  笑ってるのか困ってるのか、楽しんでるのか、俺には分からない。    だから何だっつーんだ。  もしかして、俺があんなに必死な思いで恥ずかしい台詞言いまくったのに、まさか60分コースが終わったからって『お引き取りください』とか、言い出すんじゃあ……。    ここは完全予約制だ。  俺のあとに予約が入ってるなんて、まあ考えられなくもない話。   ……だけど、こんな状態でおあずけだなんて……、男として辛すぎる。 「そんな、物欲しげな顔しないで下さい」 「っ! して、な……ッ」 「……延長、されますか?」 「……え?」  延長……。そんなことも出来るのか。  とりあえず、俺のすぐあとに予約は入っていないらしい。    ある意味よかった、のか……? ……いや、そんなこと、ある訳ない。考えるな。  そういうふうに思うこと自体がおかしい。    自分に、言い聞かせる。  せっかく延長するかって聞いてるんだから、これは逃げるチャンスだ。  とっとと断って、帰ろう。 ……そう、俺は確かに思ったのに、口からはすでに、言葉が紡ぎ出されていた。 「えん、ちょう……します」 「承知しました」  熱に浮かされたような顔で呟く俺に、兄ちゃんはとても嬉しそうに笑った。 ───…… 「っぁ、あ……ッ」  びくびく震える身体を、抑えられない。    四つん這いの体勢にされて、上からのし掛かるようにして熱い舌で耳を舐められた。  くちゅり、粘着質な音が直に聞こえて、鼓膜さえも犯されてる気分だ。  軟骨を甘噛みされて、耳の裏をねっとりと舌が這う。  もうそれだけで、身体がおかしいくらい跳ねて、ぞくぞくする。    作業着とボクサーパンツを膝まで下ろされ、前と耳をいじくり回される。   ほとんど裸の状態で、じゅくじゅくに濡れた竿を扱かれたら、もはや先走りは止まらない。  見る余裕も勇気もないけど、ベッドにまで滴ってるのは確実だろう。 「っあ、ん、んん……ッ」  あいた手で太ももを撫でられると、それにも鳥肌が立って、震える。  そんな俺を嘲笑うように、兄ちゃんは意地悪く耳許で囁く。   「どこも敏感ですね……。こういうこと、よくするんですか?」 「っな、は、初めてに、決まってんだろ……?!」  心外だった。  好きで全身敏感なんじゃないのに。    学生の頃はそれなりにモテたし、女の人としたことはもちろんある。  決して童貞ではない。  でも、相手が男なんて、それこそ今まで想定すらしたことない。  昔から、ほんとはちょっと思ってた。  人より若干、刺激に対して過敏ではあるかな……って。

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