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17:錯乱

「……っはあ、は……」    息が荒い。  妙に腹が温かいと思ったら、兄ちゃんは俺の腹の上に射精していた。 ……俺で、イけたんだ……。  腹筋や、へその窪みに精液が伝うのをぼんやりと眺める。  日に焼けた肌に白濁はミスマッチなはずなのに、その生々しさが余計に艶かしく思えて、俺は自分の身体から目を逸らした。     「さすがに中出しはだめだと思ったので……、すみません」 「……いや、大丈夫……って、うわ」  苦笑する祐介を見上げると、やつの頬には俺のがべったりとついていた。  綺麗な顔を汚ないもんで汚してしまった……。    まだ余韻が抜けてなくて、ぴくぴくと小さく痙攣する身体。  顔を横に向けたまま、俺は視線だけを祐介に移した。 「……すまん、汚しちまった…」 「いえ、たくさん出ましたね。すごい量……」  言いながら、やつはどこか恍惚とした表情で頬についた白濁を指で掬って、そして、何を思ったか、青臭いそれを舐めた。   「っな、ばかっ! んな汚ねぇもん舐めんなよ……!」 「汚なくないですよ、いやらしい味がします」 「……っ!」  いやらしいのは、明らかにお前のほうだろ。  赤い舌が、指についた白をぺろりと舐めとる。    卑猥な光景になんだか物凄く恥ずかしくなって、俺は真っ赤な顔をバッと両手のひらで覆って隠した。    ほんとに今更だとは思う。  だけど、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。  顔から火が出そうなくらい、熱い。 「可愛かったですよ、達也さん」  きっと今、こいつはムカつくほど綺麗な顔で、ちょっと意地悪そうに笑ってるに違いない。    そんなやつを、俺は直視出来るはずもない。   ……だって、なんか。  俺、流れでとんでもないことしたし、醜態もたくさん見られた……。    身体はまだ火照っていて、後ろになくなった存在が大きすぎたせいか、後孔がちゃんと締まらない。    まだぽっかりと穴があいているような気がする。  それが余計に、情事の証拠をリアルに伝えてくる。   「どうしたんです、急に。体調が優れませんか」  突然顔を隠して何も喋らなくなった俺に、兄ちゃんの心配そうな声が聞こえてくる。    もう、見るな。  改めて自分がした、事の重大さと羞恥心で顔を上げられない。  俺は生娘か。  いやまあ、そうだったんだろうけどさ……。   「からだは、大丈夫だから……」  ボソボソと、それだけ呟くので精一杯だ。    こんな、途中まで名前も知らなかったようなやつと、しかも最後までしてしまうなんて。    男とするのも初めてのくせに、あんなに喘いで、あんなに感じるとか。  ほんとに俺、浅はかすぎる。 ……ていうか、ここって。 「っ、お、俺……!」 「? どうされました?」 「人、まだ居たのに、俺、でかい声、だした……ッ」 ……どうしよう、どうしよう……っ!  行為に溺れて忘れていた。  ここは、マッサージ店で、他に、人が居たのに……っ!    絶対……、バレた。  聞こえてた、ぐちゅぐちゅって音も、俺の、声……も。  あんな可愛い女の人に、俺の、よがる変な声、聞こえて……!   「っひ、ぅ……あぁ゙」  激しい性行のあとでの事実に、俺は気が動転していた。  まるで情緒不安定になったみたいに、ショックやら罪悪感やらで、今さらぼろぼろと涙が溢れる。

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