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第14話

 校庭に降り注ぐ灼熱の太陽が俺の頬をじりじりと焼く。見上げると曇り一つ無い晴天が広がっていた。七月十一日は快晴だった。眩しい陽光と夏風が気持ちいい。午後七時から午後十時までを延々と繰り返していた俺にとって久々の太陽だ。  校舎に向かう生徒達の中で、一際背の高い男が目に留まった。レンガが敷かれた歩道に野田と能瀬が並んで歩いている。 「あ、ホモだ」  大勢の生徒が行き交う歩道で大騒ぎしたのは白井だ。負けを取り返そうとしているのか、野田への嫉妬か。昨日は幽鬼のように視線を虚空に漂わせていたというのに、立ち直りが早い。 白井を小突こうとしたが、その必要はなかった。白井は唖然と立ち尽くした。  大きな掌が繊手を力強く握り締めたのだ。  あっ、と能瀬は隣の男を仰ぎ見た後、嬉しそうに微笑んだ。  背後の俺に気が付いたようだ。柔らかい笑みを向けてきた。俺は軽く手を上げた。 「なんだよ」  嫉妬したらしい、野田は横顔に不機嫌な色を浮かべた。能瀬はくすっと笑う。  眩しい二人には、爽やかな青空が良く似合う。見ていると悲しくなるし、羨ましくもなる。胸に迫る切なさをぐっと堪えながら俺は考える。  反復現象を引き起こした原因は、能瀬の未練なのだろうか。それだけであの超常現象が起きるとは考え難い。二人の真剣な愛が奇跡を呼んだのではないだろうか。残念だが俺は外野だ。ならば、俺がすることは二人の幸せを祈るだけだった。  校舎を囲む木々が、さぁさぁと風に揺れた。深緑の枝葉の間から漏れる陽光の眩しさに俺は目を細めた。夏はこれからだ。  しばらくしたら、次の恋をしよう。  奇跡を起こすくらい、誰かを深く愛すのだ。

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