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 悶々とあまり良いことを考えないでいたら、いつの間にか時間がたっていた。 「匠くんお待たせ~」  芹沢さんがスッキリしたみーちゃんを連れてやってきた。  そこには、異国の王子様か?ってくらいに変身したみーちゃんが…。180㎝はある長身にカールがかった髪。確か日に透けると栗色に見えるんだ。  前髪も切って、俺の好きな、引き込まれるようなグリーンの瞳が見える。似合ってるよってすぐに声かける気でいたんだけど、あまりに、カッコよく、想像以上の変身だったから、顔が熱くなるだけで声が出てこない。   「たくちゃん?どうかなぁ……変?」 なんだこれ、一言カッコいい似合ってるって言うだけじゃん!セフレにはリップサービスで今日いつもよりカッコいいんじゃないですか?とか、今日の服似合ってますねとか簡単にホイホイ出てくるのに。みーちゃん不安そうな顔してるって! 「に、似合ってる!」 頑張って絞り出したら店中に聞こえる音量の声が出た。俺、勘弁してくれ。  みーちゃんは驚いた顔して、笑いながらありがとうって言ってくれた。恥ずかしかったのこれでチャラみたいないい笑顔見られた。けど恥ずかしいからさっさと料金払って帰る。 「芹沢さん会計よろしく」 「えっ、たくちゃん俺が払うよ、俺が切ってもらったんだし」 「ダメ。俺が勝手に連れてきたんだから、もしここ気に入って、次来る時はみーちゃん払いな?今日は俺が出すからダメ~」 「仲良いのね~。匠くんがこう言ってるから。翠くん、また来た時はよろしくね」 「分かりました。たくちゃん、ありがとう」 「おっ、おぉ」  支払いしたら速攻退散。おっと、みーちゃんの車なんだった。 「たくちゃんどうぞ」 おわっ、助手席のドア開けてくれんの?照れる!王子?いちいちむず痒い。  運転席に乗り込んで、エンジンかけてハンドル握るのまでいちいちカッコよく見えるのはなんだ。恋人フィルター?それともみーちゃんて分かったからか?  みーちゃん。俺が守りたかった、可愛いみーちゃんはこんなにおっきくカッコよくなっちゃって…。みーちゃんだから好きなのは好きだし面影があるんだけど、どうにも慣れない。忘れてた期間があるから、先月お別れした子供のみーちゃんが、急に成長して戻ってきたような不思議な気分だ。 「たくちゃん、正直視線が痛いくらいなんだけど、やっぱり似合ってないのかな?ハッキリ言って大丈夫だよ」 あぁっ、またガン見してたのか。変な誤解させないようにハッキリ言わなきゃ。 「似合ってる。似合いすぎてる。カッコいい。カッコよくて王子みたいで、みーちゃんなのに戸惑うよ」 言った!一息で言えた!俺偉い! 「なにそれ…たくちゃん可愛すぎるね」  そこから会話はそんなに弾まなくて、アパートの前でおろしてもらった。えーと、これが普段ならラブホでバイバイが常だから、アパート前まで送ってもらうってのも初めてで…。いや、なんかハズいなこれ。照れる照れる。明日どうやって顔合わせよ…。

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