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そうか。自分から愛情表現をする。好きって伝える。なかなかそんな事したことない。翠が来てくれるから、甘えきってたんだ。自分からいかなきゃダメな時もあるんだ、きっと。よし。
午後の仕事も滞りなく終わり。
「翠先生、終わりました?」
「あー、匠先生…終わるには終わりました」
「今日は帰り道俺が運転するね」
いつもは翠の愛車で翠が運転してくれてるけど、俺だって運転はできる。きっと翠だって疲れて運転するのも面倒な日もあっただろう。俺は甘えきってて、そんな事も気づこうとしてなかったんだ。
そして自分から伝えるんだ!
「たくちゃん、家こっちじゃなくない?買い物?」
「買い物はないよ。もう着くよ」
「は?たくちゃん、ここ…入口入っちゃったよ?」
翠が焦って訊いてきた。間違ってなんかないよ。
「目的地はここだよ。初めて来たね。たまには気分変えて、いいでしょ?」
そう、着いた場所はラブホテルの駐車場。自分から伝えるなんて普段と違うことするんだから、場所や雰囲気も変えて勢いつけないと。
ぽかーんとした顔の翠の腕をとり、ぐいぐい引っ張っていき、部屋ももうどこでもいいって感じで、適当に選んでエレベーターへ。どこもかしこも悪趣味にピカピカしてる…。もうちょい場所選べば良かったかな。
保坂先生…自分から伝えるって難しいよ…翠はポカーンとしたまま俺に連れられるままであんまり反応がないし、心折れそうになるよ…。
鍵に書いてある番号の部屋に入ると、いかにもラブホテル!ってな感じのベッドが映る大きな鏡やら、透けて見える風呂場とか、自宅とは全く雰囲気の違う部屋。
触ってもらってなかった期間の想いが爆発して、ドアを閉めたその場で背伸びしながら翠の唇を味わう。
キスの合間合間に溢れて言葉になった気持ち。
「なんで構ってくれなくなったの?」
「俺に飽きちゃった?」
「寂しかった……」
と、両肩を手で押し戻される。もう翠は俺の事好きじゃないの?
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