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第3話召喚術
「北の門を閉じろ!何があっても城の中には入れさせるな!」
城の外から兵士が叫ぶ声が聴こえる。それだけでなく、何か得体のしれない生き物の声や、兵士の呻き声も聞こえてくる。
「ひぃっ……!本当にジェイダ国王の言ったとおりになってしまった……」
隠れるように城の中の自室で籠っているのはジェイダ国王の秘書のマーリンだ。
窓からそっと外を見ると緑色の体をした二足歩行の爬虫類のような生き物と騎士団が戦っているのが見える。どうみても戦況は人間側が不利でこの三日で約半数の兵士を失ってしまっていた。
ーーこのままじゃ、本当にこの国が終わってしまう……。
銃の発砲する音に怯えながら身を縮こませていると、突然マーリンの部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
「ここにいたのかマーリン、さあもう時間がない着いてこい」
そこに立っていたのはジェイダ国王の側近の一人神官のレミウスだった。
レミウスは慌てた様子でマーリンに着いてくるよう急かした。その手にはあの朱色の箱が握られている。
「レミウス様、それ本当にやるんですか……!」
小走りでレミウスに着いていくマーリンは困惑した表情で尋ねた。
それもそのはず、あの日ジェイダから聞かされた話は誰も信じられるような話ではなかったからだ。
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「この世界で、私の血を受け継ぐものは誰一人いない。……だが、この血が新しい勇者を選んでくれるはずだ。その箱の中に鍵と透明の瓶ががあるだろう。それは地下の一番奥にある部屋の鍵だ。それを使って新しい勇者をこの世界に呼び寄せるのだ」
「呼び寄せる……。召喚術という事……ですか?」
尋ねたのはレミウスだ。彼は、怪訝そうな顔をしながらその長い髭を何度も指先で撫でている。
「レミウス……聞いたことがないのは当然だろう。これは歴代の国王が次の国王へ口頭で伝えている事だ。私も父が亡くなる前に聞いただけなのだ。……それで、レミウス。その召喚術にはお前の力がいる」
「……それはどういうことでしょう」
「私の血を使え。……マーリン、その箱に瓶が入っていただろう。それを渡しなさい」
マーリンは、箱の中に入っていた小さなガラス瓶をジェイダに手渡した。ジェイダはそれを受け取ると枕元から護身用のナイフを取り出した。
「王様、それどうする気ですか……?」
マーリンが怯えるようにジェイダに尋ねたが、ジェイダはそれに答えず勢いよくナイフで自身の手のひらを切り裂いた。
「王様っ……!誰か、誰か止血を!」
勢いよく流れる血を止めようと慌てふためくマーリンをジェイダは制止すると、持っていた小瓶に自身の血を流し込ませた。
ポタポタと流れる血を、その場にいた全員が唖然とした表情で眺めている。
血で満たされた小瓶を震える手でマーリンに手渡すとジェイダは全ての力が抜けたように天井を見上げそっと目を閉じた。
「すまない、時間が来たようだ……。どうかこの国の民が幸せでいられるよう私は死んだ後も祈っている……」
「王様……!」
「ジェイダ様……!!」
側近が何度も何度も呼びかけるもジェイダはそれから目を開ける事は二度となかった。
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魔族がイブネリオ王国に現れたのはジェイダが亡くなってわずか三日後の事だった。
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