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第7話帰っちゃダメ!

「わかった、俺にしか出来ないというなら」 翔は長剣を手に持つと立ち上がった。履いていたスニーカーの紐を結び直しマーリンが持っていたランプを片手に持つ。 「この部屋を出たら真っすぐ進んでください。突き当りの階段を上がって行けば外に繋がるに着きます」 「わかった。マーリンさん、おじいさんの介抱をよろしく頼む」 「勇者様……どうがご無事で……」 マーリンの見送りのもと、翔は走り出す。階段まで来ると、獣のような呻き声や人の叫び声が聞こえてきた。 急いで階段を駆け上がり、外に続く大きな扉を開けた。 「っ……!これは……」 目の前で、緑色の体をした二足歩行の生き物が人間を襲っている。男たちは必死に剣や銃で立ち向かうが2メートルはあるであろう魔族に太刀打ちできず、たくさんの男たちが血を流しながら倒れ込んでいた。 その光景を見た瞬間自分がまだ子供の頃、危ない目に合い怪我をした日の事がフラッシュバックする。 『そうか!嬉しいぞ!君が大きくなったら、たくさんの人を助けられる男になってくれよ』 懐かしい人。翔が警察官を目指すきっかけになった人だ。もう十年以上も前の事だけど一度足りとも忘れたことはなかった命の恩人。その人の顔が頭に浮かぶ。 「俺はあなたとの約束、必ず守ります」 そう呟くと翔は、金色の剣を振りかざし敵に向かっていった。 ーーー 「誰だ、あいつは……?」 騎士団の制服を着た男は座り込んだまま口をぽかんと開けて驚いている。 それもそうだろう、先ほどまで一体倒すだけで精一杯だった魔族との闘い。 それをいきなり背の高い黒髪の男が割って入って来たかと思ったら、その美しい長剣であっという間にバッサバッサ倒して行ってしまった。 城の周りにいた20体以上の魔族をわずか30分で全て倒したのだった。 「勇者様!」 ちょうど魔族を倒した後、目を覚ましたレミウスを支えながらマーリンが歩いてきた。 「マーリンさん、なんとか倒しましたよ」 「あ、あ、ありがとうございます……!勇者様」 泣きながら感謝を述べるマーリンの隣でレミウスが信じられないとでもいう様に驚いている。 「あなたが勇者か、本当に召喚できたんだな……」 「あ、おじいさん気を失ってたけど大丈夫ですか?」 翔は心配そうにレミウスの顔を覗き込む。 レミウスが頷きながら「ありがとう」と伝えると翔は満足そうに微笑んだ。 「マーリンさん、あなたの願い通りここにいる魔族は倒しました」 「えぇ!本当に感謝しています」 「それで、俺、来年警察官になる予定なんです」 「……ケイサツカン?」 マーリンは笑顔のまま何を言ってるんだろうという様に首をかしげた。 翔は追い打ちをかけるようにそのまま話を続ける。 「はい、警察官に。だからそろそろ帰ろうと思うんですが」 ”帰る”の言葉にビクッと反応するマーリン。次第に顔は青ざめていき、ついにはレミウスを支えていた手を離して自分の頭を抱えてしまった。 「……だめです!今帰っちゃだめです!!」 荒れ果てた城の庭でマーリンの悲痛の叫び声がこだました。

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