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第10話いざ王宮へ

「条件がある。それをのんでくれたらやらなくもないよ」 ジュリは部屋に戻ると、部屋に一つだけ置いてあるウィンザーチェアに腰掛けた。その白くて華奢な足を組むと、二人に話し始めた。 「まず一晩だけ。2回目からでも暴力振るったり、無理矢理項を噛もうとした時点でアウト。あとさっき言った約束は必ず守ってもらうけど、勇者専属の間の生活費もそっちに持ちだから」 「わかった、必ず守ろう。他には何か希望はあるか?」 「……ないよ。約束さえ守ってくれたら」 マーリンとレミウスはジュリの返答を聞くとホッと安堵の胸を撫でおろした。 気が変わらないうちにとレミウスは 「ありがとう。いつからなら来れそうだ」 「今夜からでいい」 ぶっきらぼうにそう答えるとジュリは、もういいでしょ、と言いながら席を立った。さらさらの黒髪を耳にかけるとしゃがんで靴紐を結び直している。 「今から一旦家に帰るから。……何時に王宮に行けばいいわけ」 「あ、あぁ……じゃあ夜8時ごろ、ここに迎えをよこそう」 「わかった。……あ、そうだ勇者様ってアルファ?」 ドアまで歩くと、ジュリは顔だけ振り向きながら聞いた。 「そうだ。血液検査ではアルファ、しかもかなり強い方とでた」 ジュリはそれを聞くとニヤリと笑いながらその紫色の瞳を細めた。 「なら、今夜はアルファの抑制剤は飲ませないようにして。……短期決戦でいくから」 ーーーー 「お迎えにあがりました。ジュリさんですね?」 午後7時55分。約束の五分前に王宮からの”迎え”は到着した。 その深いブラウンの箱馬車で迎えに来た王宮の紋章が入った帽子を被った従者はジュリに近付き黒いマントを手渡した。 「他の人に見られぬようご協力お願いします。フードも被って……」 手渡すときにちょんと手が触れ合う。その瞬間従者は顔を真っ赤にし胸を押さえた。 ーーあー、僕に反応しちゃったか。今日は抑制剤軽いのしか飲んでないから香り駄々洩れだからなぁ。 ジュリはあえて強い薬を飲まなかったことに少しだけ後悔した。 「あなたはアルファ?そういえば今日来た人たちも大丈夫だったかな……」 「私はベータなので少し離れれば大丈夫です……。マーリン様もベータです。レミウス様はアルファですがあなたの噂を聞いていたので一番強い抑制剤の飲んでいます」 なおも息苦しそうに話す従者にこれ以上そばにいると勇者とする前に自分が襲われると感じ、持ってきた鞄を持つと急いで馬車に乗り込んだ。 馬車に揺られること30分。心地よい揺れにウトウトと眠りかけていると王宮に着いたのか大きな振動の後、馬車が停まる感覚がした。 「着きました。降りてください」 従者の声がし、馬車を降りる。冷たい風がヒューと吹き思わずマントが吹き飛ばないように縮こまっていると向かいからマーリンが走ってくるのが見えた。 「ジュリさん、お待たせしました」 「いや、待ってないけど……あれ?レミウスさんは?」 ジュリがそう尋ねると、マーリンはばつの悪そうな顔をし、ちょっと体調が……、と言葉を濁しただけで何も教えてくれなかった。 「勇者様の寝室はこちらです。着いてきてください」 マーリンはそう言いながら城の裏口に案内した。 使用人が使うその通路は狭く薄暗い。螺旋階段を上がり扉を開けると一気に視界が明るくなった。 「あの突き当りが寝室です。勇者様は30分後には寝室に向かわれると思います」 「……わかった。とりあえず今晩だけ、だからね」 ジュリはそう言うと持っていた鞄の取っ手をぎゅっと握りしめ部屋に入って行った。

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