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第18話自由の言葉
「とりあえず、荷物置きにいこ……」
置いてけぼりになったジュリは渡された鍵をぎゅっと握ると用意された自室に向かった。
ゆっくり鍵を差し込みそっと、金色のドアノブを回す。
「えっ、これなに……」
部屋の中を見て驚いた。
ショウの部屋よりも部屋の中が豪華だったからだ。
自分は金で契約した男娼。いくら勇者直々に呼ばれたからといって、あてがわれるのはどうせ粗末な部屋だろうと思っていた。それがだ、アンティーク調で出来た猫脚の鏡台に、それと同じ木材で出来たローテーブルにふかふかのソファ。ベッドはショウの部屋と同じサイズのベッドで違うといえば、シーツの色が赤色じゃなくて白色だったということだけだった。
「これ本当に僕の部屋?でも鍵あいたしな……」
まだ信じれないジュリだったがここに立っていても何もはじまらない。
しょうがない、とソファにバッグを置くと中を整理しだした。
抑制剤は忘れないように鏡台の上、その横に男娼を始めてからずっと使っているヘアブラシ。
最後にショウの部屋より大きいだろうクローゼットの前に立つ。
持ってきているのは今着ている普段着の黒と茶の色違い2着。それと白、黒、薄紫のベビードール3着だけだ。
「洗濯……は、さすがにさせてもらえるよね」
ジュリは持ってきている服の少なさに少し不安になりながらクローゼットを開ける。
「え、えぇ……やっぱ部屋間違った!?」
ジュリは驚き持っていた服を全部落としてしまった。
それもそうだろうクローゼットの中には色鮮やかな服が大量にかけられていたからだ。
ショウは渡すカギを間違えたんじゃないか、と思ったジュリは急いでクローゼットの戸を閉めようとした。
ー-これなに?ー-
ちょうどジュリの目の前、白い襟元がフリルになっているブラウスの胸元に赤いカードが金色のピンで留められているのを見つけた。
吸い寄せられるようにそれを手に取るジュリ。簡単に取れたその赤いカードをひっくり返すと文字が書いてある。
『ジュリへ
気に入ってくれる服があればいいんだが。
この部屋のものは全て君の自由にしてほしい。
ショウより』
「なんで、ただの男娼の僕にここまでしてくれるわけ……?」
ジュリは信じられないという顔で何度もそのカードを読み返す。
『自由』というたった2文字。
それはジュリが今までの人生で一番欲しくて一番手に入らなかったものだった。
ジュリは胸がキュウ、と苦しくなるのを感じながらそのメッセージカードを胸に抱きしめた。
ー---
「あの、ショウはどこにいるの……?」
ジュリはショウに貰ったフリルのブラウスとそれに合う黒いパンツに着替えると1階まで来ていた。
ちょうど、すれ違ったメイドにショウの居場所を尋ねると、メイドは一瞬目を見開いた後、咳ばらいをした。
「……どうぞこちらです。勇者様は今、騎士団員と訓練をしている最中です」
「あ、ありがとう……」
どこか棘のある態度に少し苛立ちを覚えたが、これが普通の人の対応だよ、と思い直すとジュリはおとなしくメイドの後ろをついていった。
「こちらの広場で実技演習中です。決して邪魔にならないようにしてくださいね」
中庭に繋がるドアの前でメイドは立ち止まった。ここから自分で行けということなのだろう。
じゅりは「ありがとう」と言うとドアノブを握りドアを開けた。
「男娼ごときが……」
すれ違いざまに聞こえた声。小声でボソッとしか聞こえなかったが確かにあのメイドはそう言ったのだ。
ー-確かに男娼だけど!あんたに言われる筋合いはない!ー-
カッとなりドアノブを握る手に力がこもった。
その時だ。
「ジュリ!来てくれたんだな!」
前方からショウが走ってきたのだった。
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