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第17話好きになってくれるまでは
そのまま部屋を追い出されるように外に出ると、既に娼館の前には前回と同じ黒い馬車が用意されていた。
また、これで行くのか……。行きたくなくて馬車に乗るのを躊躇っていると、中から見知った人物が降りてきた。
「朝方ぶりですね、ジュリさん」
「……マーリンさん!」
マーリンはにこにこと嬉しそうにジュリに小さな袋を渡した。
あの金平糖だ。
「ほら、次会えたらお渡しするって約束でしたでしょう?というかさきほど勇者様がお渡しになりませんでしたか?」
「俺がなんだって」
突然後ろから声が聞こえた。
ジュリがその声に勢いよく振り返るとショウがまるでジュリを逃がさないかのようにぴったりと真後ろに立っていたのだった。
「別に逃げないけど……」
「わかってるよ。さあ乗って、みんな待ってるから」
ジュリは、みんな?と聞き返したが勇者は何も答えずジュリの手を持つとそのまま馬車へ乗り込んだ。
前に一人で乗った時よりもゆったり走ってくれているからか、揺れは少なく馬車の中は快適な乗り心地だった。
だがそれは馬車の揺れの話だけで、ジュリは居心地の悪い状況に陥っていた。
「あの、なんでずっとこっち見てるの」
馬車の中は合計四人乗り。ジュリの隣はショウ。ショウの前はマーリンが座っている。
その狭い空間で、ずっとショウはジュリの横顔を見つめていた。
「君がとても綺麗だからだ。……ずっと見ていたいくらい」
「それはオメガの匂いのせいだからっ……!」
ベッドの中以外で綺麗と言われる事に慣れていなくて、ジュリの頬がぽっと赤く色づく。
そんな姿を見られたくなくて、ジュリは「もうこっち見ない」と言い放つと赤い顔を見られないようにそっぽをむいてしまった。
そのまま馬車に揺られること15分。王宮に着くと、レミウスが後ろに屈強な男たち10人ほど連れ、王宮の門まで待っていてくれた。
マーリン、ショウ、ジュリの順番で馬車を降りる。レミウスはジュリに駆け寄るとにこっと微笑んだ後深々と頭を下げた。
「ジュリさん。よくお戻りになられた」
「あーはい。戻ってきました」
「勇者様もお帰りなさいませ。このまま部屋に行かれますか?」
レミウスの発言にジュリは思わずビクッと肩を揺らしてしまう。
お金で契約した事だ。やることはわかっている。
バッグの中をちらっと覗き、一番効く抑制剤を持ってきている事を確認した。
「あぁ。俺が連れていく。騎士団長は午後の訓練メニューを引き続き行っていてくれ」
ショウがそう言い、ジュリの手を握る。
今回は使用人専用の入り口じゃない、正門から王宮に入る。
真っ赤な絨毯ときらきら輝くシャンデリアが出迎えるエントランスを抜け階段を上がる。
3階まで上がると見知った部屋の前までたどり着いた。
さっきまでジュリの前を歩いていたショウはくるっと振り返った。
ー-ついに、やっちゃうのか……。いやまあ、これが仕事だし。勇者が誰かと結婚出来れば男娼やめれるし。
ジュリはふぅ、と息を吐くと覚悟を決めて、しっかりとショウの顔を見据えた。
勇者は繋いでいた手を離すと代わりにルームキーをジュリに握らせた。
「え……?これ」
「ジュリの部屋は俺の部屋の斜め向かいだから、何かあったら俺を呼んで。……あーでも、今から訓練だからな。1階にメイドさんかだれかはいると思うから」
「いやいや、今からするんじゃないの!?」
バッグを投げ捨てるとショウに詰め寄る。ショウの紋章が入ったマントを引っ張ると思ったより力が強かったのかよろけて唇が軽くあたった。愛のあるキスとは到底言えたものじゃないが間違いなくお互いの唇が触れ合ったのだ。
その瞬間、ショウは勢いよくジュリを引き離した。
「ごご、ごめん。悪かった、そんなつもりはなくて……」
みるとショウの顔が真っ赤になっている。
そのまま片手で口元を隠しながら一歩下がると眉間にしわを寄せながら顔を伏せてしまった。
「俺は付き合っていない子とはしない。……だからジュリが俺の事好きになってくれるまでは友人としてここにいてもらうから」
それじゃあ、俺は訓練に行ってくる、そう言い残すとショウはものすごいスピードで階段を駆け下りていった。
後に残されたのは、ぽかんと口を開けたまま唖然としているジュリだけだった。
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