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第16話腕いっぱいの金平糖
「ジュリさん、こんにちは」
「えっと……こんにちは?」
勇者の爽やかすぎる笑顔にジュリは戸惑いを隠せない。
部屋に入れるかどうか迷ったが、こんな娼館の部屋の前で立ち話をするわけもいかなくジュリはしょうがなく勇者を部屋に招き入れたのだった。
「あの、とりあえず椅子に座って」
「ありがとう。その前に、これを君に。マーリンさんが君が好きなものだと教えてくれた」
勇者は、腕に抱えた金平糖の袋をジュリに手渡した。
「あ、ありがとう…。で、勇者様は一体どうしてここに?僕、断ったんですけど聞いてません?」
「あぁ、聞いた。……話をする前に俺の名前は宮内翔だ。翔と呼んでほしい」
「ショウ、様……これでいい?」
早く話をしてほしいジュリは呆れながら名前を呼ぶと翔は満足気に微笑んだ。
「俺もジュリって呼んでいいか?」
「まぁ……いいけど。それで話は?」
ジュリが話を促すと勇者は真剣な顔をしてジュリの前に跪いた。
"んっ…んっ…"と咳払いし、ジュリの片手をそっと握る。
「ジュリ、昨夜出会ったばかりだが、どうか俺のことを信じてほしい。……君が好きだ」
「……はぁ?!」
思わず握られた手を振り払い後退りする。
その衝撃でジュリの腕から金平糖のお菓子がこぼれ落ちた。
「昨日のは仕事だっただけ!勃ったからそう勘違いしてるだけでしょ!?……だいたい僕はアルファなんか大嫌いなんだ。好きとか絶対あり得ない」
「……っ勘違いじゃない。一目惚れなんだ……」
翔は立ち上がるとジュリに一歩近づく。
ビクつくジュリを刺激しない様、少し距離をあけたまま話す。
「ジュリが警戒するのもわかる。……だけど、このまま君をここに置いていけない。だから契約をこのまま継続する」
「どうして!」
「君が他の男と寝るのが嫌だからだ!」
2人はだんだんヒートアップしていき、その声は廊下まで漏れていたらしい。
廊下で聞いていたらしいオーナーが、見かねて部屋に入ってきた。
「おいおい、廊下まで声が響いているぞ」
「だって、オーナー!」
オーナーは「そこまで」とジュリを制止すると、翔に向かって厳しい顔をしながら仁王立ちになった。
「ジュリはうちの大切な家族です。男娼だからといって傷付けるのは私が許しません」
「傷付けない!なによりも大切に扱う」
「……必ず約束すると誓ってくれますか?」
「もちろん、世界一幸せにすると誓おう」
翔の返事に納得がいったのか、満足そうな顔をしてジュリの方へ振り返った。
落ちていた王宮に行った時に持って行った鞄をジュリの手に握らせるとポンと肩を叩く。
「ということだ、ジュリ。お前、王宮に行ってこい」
「……えー!!!」
その日一番のジュリの叫び声が娼館中に響き渡った。
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