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第22話ジュリの過去②
「ごめん……。こんな泣くつもりなんてなかったのに」
しばらく泣き続けた後、ショウの腕を離したジュリはそのまま申し訳なさそうにごめん、と呟いた。
泣きはらした目は赤く腫れぼったくなっていて、鼻先や頬までピンク色に染まっている。
「気にしないでいい、俺の腕ならいつでも貸すから。……ところで弟たちは今どうしているんだ?」
「弟たちは娼館のオーナーが経営してる施設に預かってもらってる。僕も週に1回の休みはそこに帰ってるんだー。……弟たちがベータで本当に良かった。僕と同じ事しないでいいんだから」
ジュリは目をごしごし擦りながら自嘲気味に笑った後、「でもこの生活も、終わりが近いのかも」と話し出した。
「ショウが、ちゃんと相応しい人と結婚して世継ぎが出来たら、お母さんの残した借金返してくれるんだって」
気持ちよさそうに天に手を伸ばしながら空を見上げるジュリ。その横顔も手首も見えているところ全てが儚げで今にも消えてしまいそうだった。
「ジュリ……俺は君がいい。友達から始めていずれ好きになってくれれば……。俺と結婚すれば弟たちもすぐここに」
「何言ってるの?……僕はアルファを信用していないし嫌いなんだ。お母さんを捨てたようなアルファなんか……。そもそも、僕は結婚とか番とか一生いらないし。ショウもよく考えてみなって!男娼なんて結婚相手に相応しくないよ」
さっきまで穏やかだったジュリの顔が途端に冷たくなる。眉間に皺を寄せ顔を背けると急にその場で立ち上がった。
「でも、ショウはアルファだけど威圧的じゃないし、いい人だと思ってるから。……仕事として協力はするよ」
もうこの話はおしまい、と言いショウの方を見るジュリの顔は作られたような綺麗な笑顔だった。
夕日が沈む頃、二人は並んで王宮まで戻った。今度はゆっくり景色を楽しむようにのんびりと歩いた。
広大な花畑に緑の木々。その後ろに聳え立つ城はまるで絵画のようだ。
「ジュリ、今日は言いにくい事話してくれてありがとう。君の事を知れて嬉しかった」
「あー……うん、ごめん。なんか恥ずかしいや。もう忘れて、ね!」
「いや、忘れない。……今度は俺の事を知ってもらいたい」
その言葉にジュリは苦笑いを浮かべるだけで、何も答えはしなかった。
なんでこの仕事をしているのか、なんでアルファを嫌うのか。ジュリの話を聞いて理由はわかったが、本音を隠して笑う顔や一人でたくさん背負っている姿を見ると、ぎゅっと胸が締め付けられる感じがした。
俺にだけでも、心から笑って欲しい、一人で背負わないで俺に頼ってほしい。そう思ったショウはジュリの右手をぎゅっと握りしめた。
「ちょ、ちょっと、手!」
「友達でも手ぐらい握るだろう。そうだ、友達だから2人きりで食事くらいするな。今日の夕食は俺の部屋で食べよう!決まりだ!」
「え、えー……」
ジュリは困った表情で手を振りほどこうとしたが、その手が解けないことがわかると、「しょうがないな」と言いながら眉を八の字にしながらくすくすと笑った。
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