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第32話襲われる

「おい、そこにいるんだろ!」 男の低い声が森に響く。 ザッザッと枯葉を踏む音が近づいてくる。 ー-逃げないとっ……! ジュリはこのまま隠れても見つかるのは時間の問題だと考え、逃げることに決めた。 ヒートで体が熱く息も荒いが、ぐっと足に精一杯力を込めジュリは王宮の自分の部屋に向かって走り出した。 「あそこだ!」 「捕まえなさい!」 フェロモンの香りと足音で見つかるのはあっという間の事だった。 男とメイドの声が後ろから聞こえる。 ー-こんなところで、ショウ以外犯られてたまるかっ……!まだ、何のお礼も出来ていないのに! 目尻に涙が溜まる。握りしめたランチクロスも汗でじんわりと濡れている。 近づいてくる足音に怖くて冷汗が止まらない。だけどそれでも足を止めることは出来なかった。 今まで嫌いなアルファ相手にでも簡単に抱かれていたのに、今のジュリにとってはそれをすることが恐怖だったのだ。 もう少しで森を抜けられる、そう思った時だった。 ドン、と背中に何かが打ち付けられるような衝撃。 え?と思う間もなくジュリは地面に倒れこんでいた。 「い、痛い……」 「ったく、手こずらせやがって・・・・・・。ヒートになってんのによくそんな走れるな」 「あんた凄いわね。あの距離で石投げてよく当たったわ……さすが王宮の門番ね」 ー-あぁ、石が当たったんだ。 どうやら、ずきずきする背中の痛みは男の投げた石が当たったからのようだった。 痛みとヒートで頭がぼんやりする。 やっぱり男娼の僕はこうなるのか、と諦めつつも悔しくて悲しくて涙が頬を伝う。 瞳を閉じ浮かんだのはジュリを対等に、そして大切に扱ってくれたショウの笑顔だった。 「ショウ・・・・・・」 誰にも聞こえないほど小さな声で呟いたのを最後にジュリは意識をなくした。 ー--- 「ジュリ、遅いな……」 その頃、ショウは自室の窓からジュリが帰ってくるのを今か今かと待っていた。 ここ一週間、ジュリは自室で持ち帰った料理を食べているようで一緒に夕飯を食べることはなかった。 時計を見ると夕方の十八時。いつもなら十七時にはショウの部屋を訪れているのに今日はその気配すらない。 今朝のジュリの顔が赤かった様子や今の状況に嫌な予感がした。 「寮とここが近いからって、一人にするんじゃなかった・・・・・・」 いてもたってもいられずショウは上着を持つと急いでジュリを迎えに寮へ向かった。 異変は外に出た瞬間、すぐにわかった。 甘い花の蜜ような香りが森の方から漂ってくる。 でもそれはただの花ではなくアルファを強く惹きつけるジュリのオメガの香りだった。 アルファを誘うその香りにショウは全身が震えあがった。 ー-ジュリは、ヒートになっている。もしアルファに見つかったら……。 ショウは脇目もふらず森に向かって走り出した。

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