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第43話君の香りだけ残して……

夜が明け朝日を迎えるころ、ショウとネイサンは王宮に帰還していた。 馬を近くにいた守衛に渡し、急いで門をくぐる。 異変を感じたのは王宮に入ってすぐのことだった。 まだ明け方の四時、いつもなら城内は静まり返っているはずなのに今日に限っては数人の使用人たちが忙しそうにバタバタと働いていた。 「あっ……ショウ様っ!おかえりなさいませ……」 ショウとネイサンに気づいたメイドの一人がベッドシーツを抱えながら慌てて駆け寄ってきた。 「まだ明け方だろう……?どうしてこんな朝早くから働いてるんだ」 「えっ……と、すいません。仕事ですから」 メイドは目をそらし、ショウ達から離れるように一歩下がる。その瞬間、持っていたシーツからジュリのフェロモンが微かに鼻腔をくすぐった。 咄嗟にメイドの腕を掴む。 「このシーツ、ジュリのだな?あの部屋には入れないはずだが?」 眉間に皺をよせ掴む手に力が入る。 細い腕にショウの指が食い込み「痛いっ」とメイドがシーツを手放した。 「私はなにも……。洗濯してほしいとマーリン様に渡されただけです」 「……そうか、それはすまなかった」 ショウが掴んでいた手を離すとメイドは床に落ちたシーツを手繰り寄せ慌てて走り去ってしまった。 その様子を見ていた他の使用人たちもショウと目が合うと不自然なほど視線を外し、その場から逃げるように立ち去った。 「なんか様子がおかしいっすね、これからどうしますか?」 「……さっき、マーリンさんがシーツを渡したと言っていたな。何か隠しているに違いない、今から執務室に行く」 「オッケー、お供します!」 二人は全速力で走りながら執務室に向かった。 息を切らせながらそのままノックもせずに執務室の扉を開けると、中から言い争う声が聞こえてきた。 「どうして部屋の外に鍵を付けなかった!」 「今そんな話をしている場合ではないでしょう!?」 アイガリオンとマーリンは立ち上がり掴みかかるような勢いで声を上げ、レミウス達は頭を抱え込んでいる。 「おい、何をしているんだ」 「ショ、ショウ様どうして……帰ってくるのは数日後では」 マーリンはショウたちの顔を見るなり目を大きく見開き口をあんぐりと開け絶句している。 「俺とネイサンはアエレ村の調査が終わり次第帰ってきた。他の団員は隣町の調査をしている。聞きたいことはたくさんあるが……何を話していた?」 「そ、それは……」 「アエレ村には魔族など一匹もいなかった!それどころか村人たちは隣町の町長に言われ俺たちが着く直前に移動している。これはどういう事だ!」 叫ぶように声を上げるも、誰もショウ問いに答えようとしない。その様子にいら立ちが抑えきれず思わず目の前にあるテーブルに拳を叩きつけた。 すると、「申し訳ありません」と女性の声が聞こえてきた。 声の主はアイリーン。アイリーンはレミウスの姪にあたり、神官補佐として働いている若い女性だ。 アイリーンはショウの前に立ち、深々と頭を下げた後、意志の強い瞳でショウを見つめた。 「叔父様、もう誤魔化せません。……勇者様、魔族が出たという話はジュリ様と距離を開けるためについた嘘でございます。騎士団員の方も巻き込んでしまい本当に申し訳ありません」 「……ジュリは無事なんだろうな」 「ジュリ様は、昨夜遅く王宮から姿を隠しました」 その言葉を聞き目の前が真っ暗になる。足がふらつき倒れそうになるのをネイサンが咄嗟に支えた。 「嘘、だろ……」 「もちろん、捜索をするつもりです。ジュリ様は勇者様の子どもを宿している可能性が高いですから……それと、ベッドの上にこれが残されていました」 驚くショウにアイリーンが差し出したのはジュリが置いていった”さようなら”と書かれたメモだった。 そのメモからは微かにジュリの香りが残っていた。

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