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第50話晴れていく心

「え……今なんて」 「……いや、気にしないで。さ、早く弟たちのところへ戻ろう」 クリスは優しく微笑むとジュリの手をそっと掴み背中を支えながらジュリを立たせる。 ジュリが「あの……」と言いかけるも、それを遮るかのように人差し指をジュリの口元へ当てた。 「ほら・・・・・・転んだらお腹の子に危ないんだから走るなよ」 よく見るとクリスの頬はうっすらと赤く染まり照れるかのようにジュリから目を逸らしている。 「うん、早く行こう」 それからジュンとケイが待つ場所までクリスは一言も喋らなかった。 ー--- その後ジュンとケイと合流しクリスが取った宿に泊まることになった。 「ジュリお兄ちゃんは、僕とジュンと一緒の部屋だからね!」 「寝る時も一緒のベッドだからな!」 「……わかったって、二人とも・・・・・・」 ジュリは「はぁ……」とため息をつく。 両腕がずっしりと重い。右腕にジュン、左腕にケイがぎゅっとしがみつきジュリは身動きが取れないでいた。 襲われた後、ジュリとクリスが休憩所に戻るとそこには項垂れ青白い顔で椅子に座り込むジュンとケイがいた。 二人はジュリの姿を見た途端、声を上げながら泣き崩れ一気に周囲の注目を浴びたのだった。 「う、うぅっ……!お兄ちゃん……ご、ごめんなさい。俺が市場見に行きたいって言ったから……!」 「ごめんね、ごめんねお兄ちゃんっ……!もう絶対離れないからね!」 「大丈夫だからもう泣かないで?何も怪我しなかったしクリスさん来てくれたから平気だよ!」 細腕を体の横で曲げ力こぶをアピールしてみても二人は泣き止むことはなく、そのまま宿まで引きずるように連れて行きようやく泣き止んだと思ったら今度はべったりと離れなくなったのだった。 「ジュン、ケイ今度こそはジュリの事よろしく頼むな」 「わかってるし!」 「僕たちに任せて!」 部屋の前、二人は仲良く親指を立てると鞄を手に部屋の中に入っていった。 「じゃあ、僕も部屋入るね。クリスさん今日はありがとう」 「あっジュリくん……!」 クリスは部屋の中に入ろうとするジュリの手首を慌てて掴み引き留めた。 手首を掴むクリスのその真剣な表情にジュリの背筋もしゅっと伸びる。 「え、っとなに・・・・・・クリスさん?」 「今日気にすんなって言ったけど、俺・・・・・・ジュリくんのそばに居たいって思ってるのは確かなんだ。その・・・・・・マルシャン村に着いてからも。これで終わりにしたくない」 「……クリスさんありがと。でも僕は」 「わかってる。ジュリくんに好きな人がいることも、お腹の子の事も。俺はベータだから匂いもよくわからないし、アルファやオメガの苦悩とかもはっきり言ってわからない。でも、ジュリくんの事は助けたいと思ってる……。これから一人じゃ大変なこともあるだろう?利用していいから、俺の事。……頼ってもらえると嬉しい」 クリスはジュリの手首を放すと顔を赤くしながら、行き場のなくなった手で自分の頭を掻いている。 ジュリよりも年上の図体の大きい男が恥ずかしそうにする姿にジュリは思わずふふっと笑みがこぼれた。 ー-出会って数日なのに、この人はなんて優しいんだろう……。 ここしばらく弟たちと一緒にいてもずっと付きまとっていた不安がクリスの言葉でだんだん晴れていくのがわかる。 「クリスさん、ありがとう!利用なんてしない。だけどマルシャン村に着いてからも仲良くしてくれると嬉しい!」 花が綻ぶような笑みをクリスに向ける。 それはジュリが王宮を離れてから初めての笑顔だった。

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