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第51話マルシャン村へ

翌日朝早く四人はルスティヒ村を出発した。 そこから五日かけマルシャン村へ向かう。 長時間馬車に乗っていると気持ち悪くなってしまうジュリのために一時間おきに休憩、夕方には宿を取って休むようにしていたおかげでジュリの体調は悪くならずマルシャン村に着くことが出来た。 「お疲れさん。……ここがマルシャン村、この辺りでは一番の商人の町だ」 「うわぁ……おっきぃ……」 御者席に座るジュリから思わず感嘆の声が漏れる。 マルシャン村はジュリがいた娼館の町よりも王宮よりも店や人で溢れていた。 若者の楽しそうな声や店先で人を呼び込む店員の姿にジュリの瞳はキラキラと輝き胸躍らせる。 「わぁー!すっげぇ!めっちゃ人がいる!」 「僕、こんな賑やかなの初めて!」 声が聞こえジュリは振り返ると荷台のカーテンからジュンとケイが顔を覗かせていた。二人もこれほど賑やかな場所は初めてで声を張り上げて喜んでいる。 クリスは後ろを振り返り荷台から顔を出すジュンとケイの頭を乱暴に撫でると前方を指さした。 「ここはまだ市場じゃないぜ?一番のメインはこの先。ほら赤い門が見えるだろう?」 クリスが指差すほうを見ると遠くのほうに真っ赤な二本の柱が立っていた。 そこが市場の入り口になっている。 市場は飲食、雑貨、日用品、本、衣類など、ここにくればなんでも揃うほど店があり観光スポットとしても人気の場所だ。 「俺の店は市場の真ん中あたり。『クルクリ』っていう雑貨屋だ。そんでジュリくんに紹介する店は俺の店よりもっと奥になる。俺の店一回寄ってから行くから」 「お、お、お願いします!」 新しい働き先。お腹の子を抱えながらは不安でしかない。 ジュリは膝の上で両拳を強く握る。 ー-ここでやっていくって決めたんだから踏ん張らなくちゃ! ジュリはクリスに向かって勢いよく頭を下げた。 ---- 赤い二本の柱を通り、市場を進む。 市場は手前から衣類・日用品、雑貨や本、最後に食品のエリアにわけられている。 四人を乗せた馬車は人ごみの中をゆっくりと進んでいる時だった。 「ようクリス!今帰りか?……って誰隣の子?!めっちゃ可愛いじゃん」 陽気な男の声がする方にジュリが顔を向けるとそこには短髪の細身の男が両手を口に当て目を輝かせながらこちらを見ていた。 「うっせえよ、ダン。今帰りだけど隣の子はお前に紹介しません。お前はさっさと店番してろ」 クリスは呆れたように嫌そうな目を男にむけると「はぁ……」と一つため息をつく。 「ジュリ、今後こいつに声かけられても一切無視でいいからな。ただの服屋の息子だ」 「ひっでぇぞクリス!俺たち幼馴染じゃないか!」 クリスの発言にダンという男は怒りながら向かってきたが、クリスはそれを無視しそのまま衣類・日用品のエリアを通り抜けた。 「ここが俺の店『クリクラ』だ。覚えておいてくれよな」 クリスの店『クリクラ』は真っ赤な看板が目印の雑貨屋だ。雑貨屋と言いつつも家具やアクセサリーが置いてある若い女性に人気の店だ。 クリスは自分の店を紹介すると一度店の裏まで馬車を動かし荷台に乗っているジュンとケイに向かって話しかけた。 「今からジュリくんの働き先まで行くけど、時間がかかるし大人数でおしかけても邪魔になるだろ。ジュンとケイ、俺の店で待ってろよ。いい子で待ってたら今夜はごちそうするぞ」 「えっ本当!?俺待てる!」 「僕も!待てます!」」 ジュリの意見を聞かず即答する二人。ここ何日も安い定食屋で済ましていたからか『ごちそう』の響きに荷台から身を乗り出し目を輝かせている。ジュリはそこまで甘えてはだめだと二人に説得しようとしたが、クリスはそんなジュリの肩に手を乗せると「俺がしたいだけだから気にすんなよ」の一言で何も言えなくなった。 ―――― 「そういえば……クリスさん。さっきの、お友達よかったの?」 ジュンとケイをクリスの店に残した後、二人はクリスが紹介する店まで並んで歩いた。 「あぁ、ダンの事?いいんだよ、あいつは。小さいころからここで育ったただの幼馴染。可愛い子を見るとすーぐに行っちゃうやつだからジュリも気をつけるんだぞ!」 そう言うクリスの顔は言葉とは裏腹にどこか嬉しそうにしている。 ――あんな嫌そうな態度とってたのに本当は仲良しなんだ……。なんだかクリスさんって子供みたいだなぁ……。 いつも大人で余裕そうなクリスが友人の前だと子供らしくなるのに思わずジュリから笑みがこぼれた。 「ふふっ、わかった。気を付けるね」 「おい、ジュリくん何笑ってるんだよ!・・・・・・ってもう着いちまったな。ほらここが紹介する店『洋食屋 BINGO』だ」

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