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第57話ジュンとケイ
BINGOの二階、四つほど用意されている部屋の一つをジュリ、その向かいの部屋をジュンとケイが使っている。本当は一部屋を三人で使うつもりだったがいくら置かれているベッドがダブルサイズだったとしても三人で寝るのは難しく、他にも部屋が空いていたことからジュリの部屋と双子の部屋それぞれ分けられることになった。
時刻は午後四時半。ジュリとクリスは双子の部屋の前にいた。
ノックをしようと右手をドアの前にかざすも緊張してなかなかノックをすることが出来ない。
ごくりと唾をのむ。ジュリが一度目を瞑り、ふぅと息をついた時だった。
隣に立っていたクリスが痺れをきらし、ドンドンと部屋の扉を叩いた。
「ちょ、ちょっと、クリス!」
「だってなかなかノックしないからさ。早くしないと夜の仕事始まっちまうぞ?」
クリスの腕を引っ張りながら怒ろうとするも当の本人は悪びれる様子もなくケロッとしている。
「も~・・・・・・」とジュリが不満気に文句を言っていると中からパタパタと足音が聞こえてきた。
「はーい、ジュリお兄ちゃん?」
「その声はジュンだな。クリスだ、部屋開けてくれる?」
どうしたのー?の声と同時にドアが開く。
そこには学校から帰ってきたばかりの制服姿のジュンが立っていた。
「久しぶりクリス!あっ、ジュリお兄ちゃんもいる!どうしたの?」
「……ジュン、学校お疲れ様。ねえ、ケイも部屋にいる?」
「いるよ!まぁまぁ二人とも入って~」
ジュンは少し伸びたふわふわの髪の毛を揺らしながら部屋に招き入れた。
十畳ほどの部屋にはダブルベッドとローテーブル、二人の教科書が入っている本棚にチェストが一つとシンプルな部屋になっている。
中を覗くと中央に置かれているローテーブルでケイが勉強していた。
「ケイ!お兄ちゃんとクリス来たよ。一回勉強、休憩しよう」
「……あれ?兄ちゃんとクリス!どうしたんだよ急に」
「ケイ勉強中だったんだね、急に来てごめん。ちょっと、二人に話したいことがあって・・・・・・」
顔を強張らせながらなんとか言葉を紡う。
ジュリは緊張でじんわりと汗をかいている掌をズボンで拭った。
それに気づいたジュンはジュリの腕を引っ張るとニッと微笑んだ。
「何かあったんだね。とりあえず二人とも座ってよ、ほら!」
「あ、うん……」
「……兄ちゃん、どうしたんだ?なんか顔色悪くないか?」
ローテーブルにクリスとジュリが座ると、ジュリの前に座っていたケイが心配そうにジュリの顔を覗き込んだ。
それほどまでに、ジュリの顔色は青ざめ、冷や汗が頬を伝っていたのだ。
ジュリはハッと双子の顔を見ると二人とも心配そうにジュリを見つめていた。
――ここまできたんだ。もう言うしかない・・・・・・!
ジュリは膝の上に置いた拳に力を込めた。
「大丈夫・・・・・・。あのね、実は。お兄ちゃん、妊娠してるんだ……」
ジュリは言い切ると二人がどんな顔をしているか不安になり顔を伏せた。
――ジュンとケイに嫌われちゃったかな……。
下を向いたまま涙ぐんでいると、「おめでとう!」と二人の大きな声が聴こえた。
その声に慌てて前を向くと、ジュンとケイが満面の笑みでローテーブル越しに飛びついてきた。
「やっぱりそうだったんだね、『太った』って言ってたけどお腹だけ大きくなってるし、なんとなくそうなんじゃないかなって思ってたんだ!」
「っていうか、早く言えよ!・・・・・・っていうかそれじゃあ相手ってクリスか!?」
二人は「だったらクリスも家族になるんだよな」とジュリを抱きしめながら嬉しそうに話している。
ジュリは誤解を解こうにも二人があまりに力強く抱きしめるから苦しくて話す事ができない。
「ざーんねん。お腹の子は俺じゃないんだな……」
苦しそうにするジュリを双子たちから引き離したのは隣に座っていたクリスだった。
双子はジュリから離れると急に険しい顔になりクリスを睨んだ。
「はあ!?じゃあ相手だれなんだよ」
「そうだよ。クリスがお兄ちゃんの事好きってことなんてバレバレだったのに!」
「ちょ、ちょっと……わかったわかった。それについてはジュリに聞くしかないだろ?」
クリスは詰め寄る双子の前に両方のの掌を向けると「落ち着け、落ち着け」と宥めた。
その瞬間、双子の視線は一気にジュリに向かった。
――大丈夫。きっとこの子たちはわかってくれる。
ジュリは、ふぅと息を吐くと二人に優しく微笑んだ。
「聞いてくれる?あのね……お兄ちゃんはここに来る前、勇者様と一世一代の恋をしたんだ」
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