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第56話好き

「パートナーって……。クリス、ちゃんと意味わかっていってる?」 ジュリはマグカップを机の上に置くと、眉を顰めながら大きなため息をついた。 「あー確かに、笑いながら言う話じゃねえよな。ごめん」 「そうだよ、こんな時に冗談言うなんて」 「冗談じゃねえよ」 クリスはジュリがまだ言い終わらないうちに上から言葉を重ねた。 恐ろしく真剣な顔つきでジュリの顔をじっと見つめる。その表情に少し怖くなったジュリはごくりと唾を飲み込んだ。 「言うつもりはなかったんだけどな。俺、もうずいぶんと前からジュリの事が好きなんだよ」 「好きって、そんないつから……」 「出会ったときから放っておけないというか、目が離せないなとは思ってた。ここに来てから一人でお腹の子と弟たち守ろうとする姿に惹かれはじめて……。もう会えない奴を想って生きてるお前を守りたいって今でもずっと思ってんだよ」 「っ……!それ僕がオメガだから好きだって勘違いしてるんじゃないの?」 信じられないとでもいうように言い捨てるとクリスは身を乗り出しジュリの両手を握りしめた。 「俺はベータだ。しかも昔からオメガの匂いを感じ取るのが苦手なタイプでさ、きっとジュリがヒートでも起こさない限りわからない。……フェロモンとか関係なくジュリが好きだ」 「でも……」 「わかってる。お前に本当に好きな人がいる事も・・・・・・。でもその『ショウ』には会えないんだろう?なら俺がいいって言うんだから利用してくれよ」 「それじゃ、クリスを傷つけることになる・・・・・・」 ジュリの瞳からぽろぽろ涙が零れ落ちる。クリスはジュリのまつ毛に付いた涙をそっと拭うと優しく微笑んだ。 「泣くなって。ジュリにそんな顔させるために言ったんじゃないからさ。お前がお腹の子、大切にしてる事知ってるから力になりたいだけ。だから、こういう選択肢もあるって覚えといてほしい。もちろんすぐ決めろなんて言わないから気持ちが決まったら教えてくれ」 クリスの言葉にジュリは一度頷き「ありがと・・・・・・」と呟く。 「でも、クリスの事そんな風に考えたことなくて……。今はこの子を産む事と、ジュンとケイにこの事をどうやって伝えるかでいっぱいっぱいで・・・・・・」 そう言いながら少し目立ってきたお腹に視線を向ける。 ジュリの瞳は不安で揺れている。 クリスは掴んでいたジュリの手を放すと今度はジュリの髪の毛をガシガシと乱暴に撫でた。 「まぁ、そう深刻に悩むなって。いざとなったら俺やBINGOの仲間がいるんだし。……とりあえず弟たちにはすぐ伝えたほうがいいな。もう“太った”じゃ誤魔化せなくなってきただろ?」 「うん……」 「よし!じゃあ今から行くぞ。夜の開店までまだ時間あるだろ?なら今から行ってジュンとケイに話す」 「えぇ!?」と驚くジュリをよそにクリスは立ち上がり「さあ行くぞ」と言いながら鍵を取る。 ジュリも慌てて鞄を取るとクリスの後を追いかけた。

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