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第59話王宮からの一行①
「え、それどういうことなんですか……?」
「あら?ジュリちゃん知らない?ほら、王様が生きてた頃は、視察もかねて色んな街を訪問してたじゃない?王様が亡くなってからは、ほら・・・・・・おっかない怪物とか出てきてそれどころじゃなかったから……。でもこれでこの街ももっと賑わうわよ!」
「あ、あの・・・・・・それっていつ来るんですか?」
「えっと・・・・・・確か来週よ!楽しみね」
ジュリはそうですね、と引き攣った笑顔で答えると、震える指先で女性にお釣りを渡した。
――もしかして、この子の事を探しているんじゃないの・・・・・・!?
冷や汗が背中を伝う。ジュリは両手で自分の顔を覆いながら座り込んだ。
その時だ、
「痛っ・・・・・・」
突然ボコボコとお腹が痛むほど激しい胎動が起きる。
まるでお腹の子に『がんばれ』と励まされているような動きにジュリは涙ぐみながら微笑んだ。
「うん、大丈夫、大丈夫だよ。絶対あなたは守るからね……」
ー----
王宮の一行は来週から一週間ほど。
“この子を守るには隠れるしかない”そう決めたジュリはその期間、『仕事の時は厨房を出ない』『休みの日でも部屋から出ない』と決めた。
ライアンやマグノリアに『人混みにでると気分が悪くなってしまう』と伝えるとジュリの体を心配し出勤時間も少なくなった。
――今はフェロモンも出てないし姿が見えなかったら、きっと大丈夫。
ジュリは覚悟を決めぎゅっと拳を握る。
そうしてあっという間に時が過ぎ、王宮からの一行が来る日になった。
朝、ライアンとジュリは食材の仕込みをしていた。
いつもはまだ静かな街も今日は朝早くからたくさんの人で賑わっている。
ライアンはその異様な光景をみたさに裏口の戸をそっと開けた。
「うわっ凄い人だな……。午後から王宮の人達が来るんだろ?今日はどこの店も早朝から開けてるしまだまだ人が集まりそうだな。……ジュリ、外出ちゃだめだぞ?体に悪い・・・・・・」
「はは、出ませんって。……それより、ほら早く仕込み終わらせないと。今日予約で一杯なんですから」
「おっと!そうだった!」
ジュリの注意にライアンは頭を掻きながら答えた。
そうこうしているうちに他の従業員も集まり、聞きたくなくても王宮の一行の様子が耳に入ってきて気が付けばジュリの顔色は真っ青になっていた。
ー-気持ち悪い・・・・・・。早く仕事終わって・・・・・・。
ランチの営業が終わり客がいなくなると緊張の糸が切れ、ジュリは厨房の真ん中で口を押え座り込んだ。
隣にいたライアンは慌てて駆け寄るとジュリの体を支え背中を摩った。
「おい、ジュリ大丈夫か?顔色が悪い・・・・・・後は俺らに任せてもう休んでろ」
「あ、すいません。大丈夫です・・・・・・」
「ジュリ!休みな!今日は隣町から私の友達も助っ人できてくれてるんだから大丈夫よ。それより今は安静!ほら、帰る帰る!」
マグノリアはジュリの腕を取るとそのまま二階のジュリの自室まで連れて行き部屋に押し込んだ。
「弟たちの事は今日は任せな。夕食は部屋の前に置いとくから食べれそうなら食べるんだよ」
「え、あっ・・・・・・」
「ベッドで寝る!それが今日のあんたの仕事だよ!」
マグノリアはそう言い放つとそのまま勢いよくドアが閉めた。
部屋にはポカンと口を開いたままの放心状態のジュリだけ。
ー-しょうがない、確かに気を張ってばっかで疲れたしもう今日はこのまま寝ちゃおう・・・・・・。
ジュリはゆっくりとベッドに腰を下ろすとごろんと横になった。
換気のために開けておいた窓の隙間からそよそよと風が吹きジュリの頬に触れる。
ベッドの上に置いてある薄手のブランケットを手繰り寄せお腹の上に掛けるとお腹の子が喜んでいるかのようにポコポコと動いた。
「ふふ、気持ちいいんだよね……。今日はママと一緒にゆっくりしようか。どうせ外にもいけないしね」
穏やかな口調でお腹を撫でながら囁く。
ー-あー、気持ちいいなぁ。もう今日はこのまま寝ちゃ・・・・・・い、そう・・・・・・。
爽やかな風と温かいブランケットに包まれているとだんだんと気持ちよくなり気づけば深い眠りについていた。
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