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第62話話し合い

病室の時計がチクタクと部屋中に響く。その秒針の音を聞きながら静かにベッドで横になっていると突然廊下でバタバタと走る音と話し声が聞こえてきた。 「ジュリ!」 勢いよく開かれたドアと同時に響くショウの声。 その声にジュリはベッドから飛び起きると立ち上がり仕切りのカーテンを引く。 カーテンを開けるとすぐそこにショウが心配そうな顔をしながら立っていた。 「わあっ……!」 「ジュリ、体は大丈夫なのか……?」 驚いて後ろに転びそうになるジュリの背中を片手で支えるとショウはそのままジュリを抱きかかえベッドに座らせた。 「うん、足はこんな感じだけどお腹の子はなんともなくて元気みたい」 「そうか、良かった……」 ジュリは自分両足首を指さし困ったように笑う。両足首は靴擦れが酷く包帯でぐるぐると巻かれているが、捻挫もないためゆっくり歩く分には何の問題もない。 ショウはほっとした様子でその場で片手を額にあて座り込んだ。 「ショウ……、あのさ話したくて」 掛布団の端をぎゅっと握り締める。 緊張で指先が震え白くなる。 ショウの顔を見ることが出来ず視線を落としたまま唇を噛みしめているとその白くなった指先にショウのごつごつとした手が重なった。 「俺も。ずっと会って話がしたかった。ジュリが俺もの元からいなくなってから今日までの事……」 その優しい声色にハッとショウの顔を見る。 ショウは顔を綻ばせながら笑っていたがよく見ると目じりには涙の粒が今にも溢れそうになっていた。 ショウはベッドサイドにあったお見舞い客用の簡易椅子を片手で手繰り寄せるとそれに座り手の甲で涙を拭った。 「その服……俺がプレゼントした服だな。大事にしてくれてたんだ……」 「ん……だって、どうしてもこれは置いていけなくて……」 「……ジュリがなんで王宮からいなくなったのかは、おおよそ見当はついてるんだ。でも、あの日の事は思い出したくないほど辛かった。目の前から君が消える……足元から崩れる感覚はもう味わいたくない」 「だって、ショウは元の世界に帰るって……!そうしたらこの子はどうなる?レミウスさんに釘さされてたのに男娼との間に子どもが出来たなんて知られたらこの子がどうなるか想像つくでしょう?……なら、ショウとの思い出を胸にこの子を守っていくしかないって……!」 だんだんとジュリはヒートアップし、最後は叫びに近い声だった。 ジュリの体は興奮で小刻みに震え、涙が頬に伝っている。 ショウは立ち上がると震えるジュリの体を抱き寄せた。。 「ごめん!……ジュリ、俺は帰らない。ジュリと出会う前は帰りたいと思っていたけど、この国で暮らして君に出会って……。もう俺はこの国で一生涯過ごしたいと思ってる。元の世界に帰るっていうのはマーリンさんの勘違いだ」 そう言いながらジュリの胸が潰れ苦しくなるほど強く抱きしめた。

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