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第63話プロポーズ

「ショウッ……苦しいよ……」 ジュリはショウの胸を手で叩きながら苦しそうにもがく。 それに気づいたショウは慌てて腕の力を抜きジュリを解放した。 「すまないっ……!ジュリ、大丈夫か?」 「大丈夫だけど……。ねえ、さっきの話本当?本当に元の世界に戻らない?マーリンさんの勘違いなの?」 ショウの顔を見上げ尋ねるジュリは不安そうに眉をほそめた。 白く細い指に力をこめショウの服の裾を掴む。 まるで『ショウが逃げないように』捕まえているようでいじらしいその姿にショウはクスッと笑うとジュリの頭を優しく撫でた。 「この国に来たばかりの頃は帰るつもりでいた。俺は『警察官になって国民を守る』っていう夢もあったし、家族や友人の事……会えなくなることに未練がないっていったら嘘になるからな。ジュリと出会ってから俺はこの国で暮らすことを決めたんだけど……どうやらマーリンさんには伝わってなかったらしい」 そこまで言うとショウは座っていた椅子をどかし片膝を床についた。 服の裾を掴んでいるジュリの指を優しく解きなおし両手で包み込む。 「君と出会って、こんなにも誰かを守りたい、愛したいって思ったことはなかった。だから……どうか今から聞く質問にはイエスで答えてほしい」 「それって……?」 「……もうわかるだろ?……ジュリ。いや、マデエス・ジュリさん。愛しています……俺と結婚してくれませんか?」 片膝をついたままジュリのその白い指先にキスを落とす。 よく見るとジュリの指先は所々あかぎれの跡や、火傷が治ったような跡まである。 ――ジュリがこの街で俺の子を守ろうとしていた証だな……。 ショウはその傷一つ一つを慈しむように頬ずりするとズボンのポケットから黒いベルベット素材で出来た小さな箱を取り出した。 中を開けるとそこには一粒のダイヤがきらりと輝く指輪が入っていた。 「これ、この指輪……」 ジュリは驚き指輪を見つめたまま目を見開く。 「嫌なら断ってくれ。断らないなら……もう離してやれない」 「!そんなのっ……断らないに決まってる!」 そう叫ぶとジュリはショウの体に勢いよく飛びついた。 ジュリの瞳からは大粒の涙が零れている。 「よかった……。ジュリ、左手をこっちに」 ショウは抱き着くジュリの頭を撫でた後、そっとジュリの左手を取った。 黒い小箱から指輪を取り、それをジュリの左手薬指に優しくはめる。 サイズぴったりとはまった指輪はジュリの左手をキラキラと輝かせた。 「ジュリ、愛してる」 「僕も……。ショウ、愛してる」 どちらからともなく二人の顔が近づきお互いの唇が触れそうになった時だった。 突然、廊下から何人もの走る音と人の怒鳴るような声が聴こえた。 その瞬間、勢いよく病室の扉が開いた。 「ショウ様!!ここにいることはわかってるんですよ!!」 ジュリは驚き、咄嗟にショウの肩を押し距離を取る。 ――この声って、もしかして……。 心臓がバクバクとなり血の気が一気に引く。 その声の主は、ジュリの事をよく思っていなかった王宮の神官・レミウスだった。

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