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第65話馬車の中で

カーテンの外側、病室の扉の近くで壁に凭れながら立っていたレミウスは急に話を振られると一度ショウの顔を見た後、黙ってうなずいた。 ――ショウもさっき『約束』って言ってたけど何のことだろう……? 「あの、約束って」 「あーあー、ごほんっ」 なんのことだろうとジュリがマーリンにたずねようとした時だ。 廊下から大きな咳払いとともに白衣を着た白髪交じりの初老の男性が現れた。 医師とみられるその男性は病室に入るなり腕を組みながら辺りをぐるりと見まわした。 そこで一番若そうなネイサンの姿を見つけると、片方の眉を吊り上げながら睨みつけた。 「すいませんがねぇ、ここは病院なんでいくら王宮の方といえど夜に大声を出されると困ります」 「す、すいませんっした!」 医師と目が合ったネイサンは慌てて謝るが、医師はそれを無視しジュリの方へ向かって歩き出した。 医師はベッドまで近づくとマーリンに外に出るよう言いジュリにベッドに横になるよう指示した。 足首の傷を確認し、“念のため”と首にかけていた聴診器でジュリの体を診察する。 「マデエス・ジュリさん、体の方はどうですか?」 「体……大丈夫です。足はちょっと痛いけど」 「検査の方もお腹の子も何も問題ありませんでしたし、足も一週間ほど歩くのに気を付けていれば良くなっていきますよ。……今日帰れますがどうしますか?」 「帰りますっ!弟の事もあるし……。あっでも」 ベッド脇に座るショウのほうをチラリと見る。 すると、ショウは大きく首を縦に振るとジュリの頭をそっと撫でた。 「今日はジュリのお店に帰ろうか。もちろん馬車で送る。……明日、会いに行くからその時に今後の事を話そう」 「……うん」 「ジュリ、大丈夫だから」 ショウの太い指先が頭から瞼、頬に伝い最後に唇に触れる。 安心させるかのようなその指にジュリは頬擦りし、キスを落とした。 ーーーー がたがたと揺れる馬車の中、ショウとジュリはぴったりと隙間なく寄り添っていた。 ショウの右手とジュリの左手はしっかりと結ばれていて僅かな別れを惜しんでいるようだった。 そんな馬車の中、ジュリはショウだけにしか聞こえないほど小さな声で囁きながらショウに尋ねた。 「ねえ、ショウ。『約束』って何のことなの?レミウスさんもマーリンさんも……ショウも言ってた」 「あぁ、そのことか……」 「聞こうとしたけどタイミング悪くて……」 そう言いながら上目遣いでショウを見上げる。 すると、ショウは困ったふうに頬を掻いた。 「いや、まあそうだな。ジュリには話しておかないと。……でも長くなるから明日ゆっくり話すよ。今はまだこうしていたいんだ」 ショウが照れたように笑いながら話すとタイミング悪く馬車がBINGOに着き馬車の窓から“コンコン”とノックする音が聞こえた。 「もっと一緒にいたいのに、二人でいる時間はあっという間だ……」 「ショウ、明日来てくれるんだよね……?」 「もちろん、お店が開く前に伺わせてもらうよ」 そうこう話していると馬車の扉が開く。 もう時間だ、というように「ショウ様!」と外にいるマーリンの声が馬車の中まで響いた。 ――明日も会えるけどもう離れるの寂しいな……。 ジュリは俯きながらため息を付くと、重い腰をあげる……。 と、その時だった。突然隣から腕をぐいと引かれ気が付くと温かい何かに体全体包まれていた。 瞬きし、よく見るとそれはショウの分厚い胸の中だった。 ジュリは目を見開き、呆気にとられていると急に柔らかいものがジュリの唇に触れた。 「やっと愛しい君にキスできた。……僕たちの子にもおやすみの挨拶してもいいか?」 「えっ……!?」 驚くジュリをよそ目にショウは馬車の床に跪くとジュリのふっくらとしたお腹に何度も何度もキスをした。 「はじめまして。ずっと会いたかったよ。今までお母さんを守ってくれてありがとう。これからは君もお母さんの事も俺が守っていくから」 最後に優しくジュリのお腹を撫でているとショウの手の甲に水滴がぽつりぽつりと落ちてきた。 ショウが不思議に思い見上げるとジュリの瞳から大粒の涙が零れていた。

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