帰ってからが大変だった。 店じまいをしていたライアンとマグノリアは王宮の馬車から降りてきたジュリが店に入った途端、厨房に連れ込み質問攻めにしていた。 「ちょちょ、ちょっと！ジュリ、どういうこと？君、部屋で休んでたよね？急に医者がケイの診察に来たっていうし、君は病院にいるって言うしどういうこと！？」 「そうだよ！しかもそれが王宮からの命令っていうからこっちはびっくりだよ。一体どういうことなんだい？」 「それは、えっと色々あって。……それより弟の様子見に行かないと！」 ジュリは「明日話します！」と言うと後ろの方からライアンとマグノリアがジュリを呼ぶ声を聞きながらケイとジュンの元へと向かった。 ー－－－ 「ただいま……。ジュン、ケイもう寝てる？」 “コン、コン”と控えめに二回ノックしそっと扉を開ける。 部屋の中はベッドサイドに置かれているランプだけが灯り薄暗かったが、よく目を凝らすとケイが眠っているベッドに寄りかかるようにしてジュンも眠っていた。 「看病疲れちゃったよね……。ありがと、ジュン」 足音をさせないように、とそっと近づき気持ちよさそうに眠っているジュンの頭を一撫ですると部屋に置いてあったブランケットをジュンの肩にかける。 ずっとケイのそばにいたのだろう、ジュンは制服姿のままだった。 「ブランケットかけても、このままじゃジュンも風邪ひいちゃうな。僕の部屋から毛布持ってくるか……」 そう呟き、立ち上がると足首に何か触れる感覚がした。 目線を下げると起きたばかりのジュンが何度も瞬きをしながらジュリの顔を見上げていた。 「お兄ちゃん……？」 「ジュン、起こしちゃった？」 眠そうに目を擦りながら立ち上がるとジュンは甘えるようにジュリに抱き着いた。 「お兄ちゃん、おかえり。あのね、お医者さんが来てくれたよ。お兄ちゃんが呼んでくれたんでしょ？お薬出してもらったから熱もだいぶ下がって今ぐっすり寝てる」 「うん、ジュン看病ありがとう。ケイも落ち着いてよかった……」 すりすりと甘えるように頬ずりするジュン。 よしよし、と背中を撫でていると「僕も撫でる」とジュリのお腹を撫でだした。 お互い撫であいながら小声でくすくす笑っていたが、急にジュンの撫でる手が止まった。 「お兄ちゃんと赤ちゃんは大丈夫？……なんか良いことあった？」 「あー……うん。あのね、明日ジュンに会わしたい人がいるんだ」 その言葉を聞いた後、ジュンはしばらくの間ジュリの瞳をじっと窺うように見つめた。 どうかしたのかと不思議に思ったジュリが首を傾げながらジュンの名を呼ぶと、ジュンはハッとしたように我に返った。 「……わかった！お兄ちゃんはもう早く休んで！お兄ちゃんまで風邪ひいちゃうよ」 ジュリの肩に両手を置くと二度、そのまま肩を叩く。 そのままお互いにおやすみのハグをするとお互い「おやすみ」とひそひそと囁きあった。 ー－－－ 翌朝。まだ街は静かで小鳥のさえずる音が聞こえ始めた頃。 ジュリがまだ布団の中でぐっすりと眠っていた。 昨晩「おやすみ」と言ったものの、ショウとの再会に興奮したままのジュリは中々寝付けずようやく眠れたのは深夜の二時だったのだ。 布団をすっぽりと頭まで被り“スー、スー”と寝息を立てていると突然部屋のドアが大きな音をたてた。 「ジュリ！起きな！あんたにお客さんがきてるんだけど！」 マグノリアの声がドアの外から聞こえる。 「え、ちょ、ちょっと待って！」 その声にジュリは驚きよろけながら立ち上がった。 パジャマ姿のまま、ドアを開けるとそこには目を見開き慌てた様子のマグノリアが立っていた。 「ちょっと！王宮の偉いさんたちが来てるんだけど！」 静かな朝にマグノリアの叫ぶような声が響いた。