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第67話結婚の許し
時刻は朝の七時。
BINGOの店奥にある十名以上の利用でしか使えない個室にジュリたちはいた。
誕生日や何かのパーティーでしか使われないウッド調の長テーブルの中央の席にショウ、その両隣をマーリンとレミウスが座っている。
ショウの向かいに座っているジュリは隣に座っているライアンを横目でちらりと見ると、ライアンは引き攣った笑顔のまま冷や汗を流していた。
たまたま朝早く出勤してきたライアンを無理やり連れてきたマグノリアは「お茶入れてくるからあんたが対応しな!」と言い放つとライアンをこの個室に押し込んだのだった。
「あ、あ~、えっと王宮の皆様。私はここの料理長をしていますライアンと申します。えっとー……どうしてここに?」
「朝早く申し訳ない。婚約者のジュリがここにお世話になっていると聞いて早くご挨拶に伺わなければと思いまして……」
「!婚約者……!?」
大声を出し“ガタンッ”と大きい音を立ててライアンは勢いよく立ち上がった。
目をこれでもかというほど見開き、片手で口を塞ぎながら何度もショウとジュリの顔を交互に見ている。
「ライアンさん、えっと『婚約者』になったのは昨日なんだけど、このお腹の子もショウとの子で」
「……それどういうことだい」
個室の扉の方から聞こえる声。
ジュリが扉の方へ振り向くと、そこにはトレイを持ったマグノリアが般若のような形相でショウを睨みつけていた。
そのまま黒のヒールを地面に響かせながらショウの前まで近づくとお茶が乗ったトレイをテーブルに叩きつけた。
「あんた、ジュリを追い出したんじゃないのかい?私はこの子がお腹の子と弟二人連れてここに来た日の事を忘れてないよ。……身重なのにあんなに必死で、頑張ってるこの子を追い出したくせによくも婚約者だなんて言えたね!」
「マグノリアさん!それは違う!」
今にも殴りかかりそうなマグノリアをジュリとライアンは抑え込む。
初老の女性だというのに、その力は強くライアンの力がなければジュリだけでは抑えられないほどだった。
――せっかく嬉しい報告になるはずだったのに。こうなったのも僕が勘違いして王宮から逃げたからだ……。
だんだんと悲しくなり目頭に涙の雫が溜まる。それでも泣くもんか、と唇をぎゅっと嚙みしめる。
そうこうしていると突然、ショウが立ち上がりマグノリアの前に進み出た。
「申し訳ありませんでした。ジュリにここまで辛い思いをさせたのは俺のせいです。あなた方がいなければジュリとお腹の子とジュリの弟たちはどうなっていたか。……それでもジュリを探してここまで来ました。これからは何があってもジュリを幸せにします。どうか……どうか結婚の許可をもらいたい」
ショウは大きく筋肉質な体を曲げ深々と頭を下げた。
「ちょ、ちょっとあんた……」
「マグノリアさん……!ショウはずっと、ずっと僕の事探してくれてて……。ショウが好き。ショウを愛してるんです……。きっとこんな気持ちになれる人どこを探してもいない。僕、ショウと結婚したい」
マグノリアの手を握りしめ頭を下げる。
ショウとジュリ、二人に頭を下げられたマグノリアは「はぁ……」と大きく息を吐くとひっつめた髪型が崩れるほど頭を掻いた。
「あんたたちがそういうなら私はもう何も言わないよ。ここを出るのもまだ居るのも好きにしたらいい。ただ……勇者さん、これからのあんたの一生をかけてジュリを幸せにするんだよ。ジュリは私の子どもみたいなもんだ、悲しませるようなことがあったら許さないからね」
「必ず幸せにする。絶対に」
「その言葉信じてるからね。……お偉いさんたちも騒いで申し訳なかったね。このお茶うちの店で人気のハーブティーなんだ。良かったら飲んでいってくれ」
私は仕事に戻るよ、そう言うとマグノリアは乱れた髪を手櫛で整えながら個室を出て行った。
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