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第68話話し合い
マグノリアが去った後、立ったままのショウとジュリにライアンが声をかけ全員席に着くことになった。
しばしの静寂の後、ハーブティーをすすりながら「これからの事どうするんだ?」というライアンの一声でようやく話し合いが始まった。
「俺は今すぐにでもジュリと王宮に戻りたいと思っている。出来ればジュリの弟たちも一緒に」
眉を八の字にしながら窺うようにジュリの方を見る。
ジュリはそのショウの視線に気づくと一つ小さく頷いた。
「僕も、戻れるなら戻りたい。でも……弟たちはやっとこっちの学校にも慣れてきたし急に学校辞めるってなるのは、かわいそうだと思う。だから弟たちの気持ちを第一に考えたたい」
飲んでいたティーカップをゆっくりと机に置くと、レミウスとマーリンの方を向き「レミウスさんとマーリンさんの考えも聞きたいです」と尋ねた。
「僕自身の考えは今すぐ王宮に戻ってきて欲しい気持ちもありますが……」
マーリンは尻すぼみに答えるとちらりと横目でレミウスの方をちらりと盗み見た。
その視線に促されるようにレミウスは「私も戻るには賛成ですが……」と話をしだした。
「王宮に戻るにも、まだ視察の途中でしょう。いくらジュリさんが見つかったからといって当初の予定をやめるわけには出来ません。だからといって身重のジュリさんと子どもの弟たちを連れて行くことは無理でしょう」
「視察が終わるまではここにいた方が賢明でしょうね」と冷静な口調でそう言い切ると目をつむったままごくりとハーブティーを飲む。
レミウスの意見は最もだ。
視察はどれだけ急いだとしても一か月はかかる。もしショウたちに着いて行ったとして、その間にお腹の子やジュリに何かあったとしてもどうすることも出来ない。それならば信頼できる人が近くにいるこの場所でショウたちの帰りを待つ方がよい。
「わかりました。僕、ここで待ってます。ショウが迎えに来てくれるまでに引っ越しの用意とか赤ちゃんの準備とかしておきます。……ライアンさん、僕まだ働けます。頑張るからもう少しここに置いてください!」
「いや、俺はいいけどさ。それで勇者さんや他の人はいいのか?」
頬を指で掻きながら困ったように尋ねる。
ショウが「よろしくお願いします」と言うと、レミウスは黙って一度だけ頷き、マーリンはほっとした表情で小さく拍手をした。
ー---
時刻は気づけば九時。そろそろ出発しなければならないショウは、マーリンとレミウスに先に馬車に行くよう指示し部屋に残った。
ライアンも仕込みがあるから、と部屋を出たからここにはショウとジュリ二人きり。
個室の扉が“バタン”と閉まるとお互い待ちきれなかったかのように抱きしめあった。
「ジュリ、急いで迎えにくるからそれまでは君もお腹の子も弟たちも無事でいてくれ」
強い力でジュリの体を抱き寄せ耳元で囁く。
「弟たちのことも心配してくれるの……?」
「当たり前だろう。みんな家族になるんだから」
その言葉にジュリの瞳から涙が溢れる。
――この人は、どれだけ優しいの……。僕だけじゃなく弟たちも家族になってくれるなんて……。
「ねえ、ショウ。会わせたい人がいるの。今から着いてきてくれる……?」
両腕でショウの胸板を優しく押す。
手の甲で目を擦ると満面の笑みでショウを見上げた。
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