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第77話戦い①
デビアスの長い爪がジュリの服に触れた瞬間だった。
「ジュリ……!」
どこからか聞こえるショウの声。
その声にふと我に返ったジュリは咄嗟に両腕でお腹を隠しながら転がるように地面に蹲った。
――ショウ助けに来てくれた!?
心臓がばくばくと鳴る。
恐怖と不安で耐えていたジュリの心が一瞬にして喜びに変わった。
せめて顔だけでも見たいと顔を上げようとした時だった。
――シュッー-
風を切る音とともに一本の白い棒が勢いよくジュリの頭上を飛んで行った。
「ぐうっ……」
まるで獣のような唸り声が聞こえる。
声の方を見るとデビアスが醜い顔をこれでもかというほどに歪ませていた。
ふぅーっ、ふうーっ、と牙をむき出しにしながら苦しそうに唸るデビアスの右肩には王宮の紋章が入った矢が刺さっていた。
――さっきの白い矢、もしかしてネイサン……?
驚きながらまじまじとデビアスの方を眺めていると、その視線に気づいたデビアスと目が合った。
恐ろしいほどまでに冷たいその目がジュリを睨みつける。
「ひぃっ……!こ、こないで……」
ジュリが恐怖で震えたまま動けないでいると、突然デビアスは獣のような叫び声で肩に刺さった矢を抜き取った。
緑色の体液がビシャビシャと音をたて雨のように地面に降り注ぐ。
ねっとりとした緑色の体液が顔や髪にべっとりつく。
ジュリがその光景に呆気にとられていると、背後から今度は馬の足音が聞こえてきた。
「ジュリッ……!」
さっきよりも近くに聴こえるショウの声。
振り向くと、馬に乗ったショウがジュリのすぐそばまで来ていた。
その後ろには馬に乗りながら弓を構えるネイサン。
どうやらデビアスの肩に刺さっていたのはネイサンが放った弓矢だったらしい。
二射目を打とうとネイサンが大きく弦を引く。
狙いを定め弦を引く右手が離れ白い矢がジュリの頭上を飛んで行った瞬間、そこにいたはずのデビアスの姿は忽然と消えていた。
「ジュリ、大丈夫か……!」
ショウとネイサンは馬から降りジュリの元に駆け寄った。
「ショウ、どうしてここに……」
「君に渡した指輪がここまで教えてくれたんだ」
ショウは首にかけていたチェーンをはずしジュリの手に渡した。
「指輪、それどこに……!」
「マルシャン村の市場に落ちていた。拾った瞬間、ジュリの香りがして誘導されるようにここに着いたんだ」
一粒のダイヤがキラキラ輝く指く指輪。
それは紛れもなくショウがジュリに渡した婚約指輪。
ジュリは大切そうに一度両手で握りしめると自身の首に掛けた。
「ジュリ、それより無事か!?怪我はしていないか!?」
「ぼ、僕は大丈夫……。だけど、あの化け物、僕たちの子ども狙ってるって。勇者の血を受け継ぐこの子を殺すって……」
震える手で自分のお腹を撫でる。
ジュリが触れるとお腹の中からぽこぽこと蹴る感覚がする。
――よかった。この子は生きてる……。
そう分かった瞬間、ジュリの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
ショウは肩を震わせながら泣くジュリの体を優しく包み込んだ。
「……。ショウ様、こんな時にもうしわけないんですが……」
二人の様子を見ていたネイサンが気まずそうに話を切り出した。
「このままあいつを見逃すわけにはいきません」
「……わかってる」
ショウは顔を上げ一度だけ深く頷いた。
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