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俺たちの効果音 (1)

 理人(まさと)さんは、わかりやすい。 「理人さん」 「……」 「理人さーん」  返事がない。  キッチンから身を乗り出すと、いつになく引き締まった横顔が見えた。  ふたつのアーモンド・アイは瞬きの仕方を忘れたように見開かれ、視線がテレビに釘付けになっている。  背後からこっそりのぞき込むと、画面いっぱいに映し出されていたのは、 〝究極のわらびもち〟  どうやら、『この夏に一度は食べたい! お取り寄せスイーツ特集』が、理人さんのツボにハマったらしい。  思わず笑いが漏れそうになるのをかみ殺し、こっそり取り出したスマートフォンで商品名を検索する。  まさにこの瞬間、同じ行動をしている人がごまんといるのだろう。  しばらく待ってようやく表示された通販サイトの画面を素早くスクショし、俺はスマホをポケットに戻した。 「理人さん」  固まったままの肩にそっと手を置くと、理人さんの目蓋が震える。  アーモンド・アイが気だるげに瞬き、ゆっくりとずれた視線が俺に絡まった。 「ご飯できましたよ。食べる?」  潤いを取り戻したアーモンド・アイが、きゅるんッと輝く。 「うん!」  ぴょこんッと跳ねるように立ち上がり、理人さんはいそいそと洗面所に向かった。  うーん……。  きゅるん。  ぴょこん。  どちらも30代半ばの男を表現する効果音としては、かわいすぎるかもしれない。  でも、理人さんに限っては例外だ。 「あ! 蕎麦だ! やった!」  だって、 「ちょうど食べたいって思ってたんだ!」  こんなにも、 「ありがとう、佐藤(さとう)くん!」  かわいいのだから……!

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