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俺たちの効果音 (2)

 数日後、日本に梅雨前線が停滞した。 「あっつー……」 「気温はともかく、湿度がやばいですね……」  朝のジョギングを終えて帰宅した俺たちを、乾いた空気が出迎えてくれる。  出る前にエアコンをONにしておいて良かった。  毎年この時期になると「エアコンを発明した人にノーベル平和賞を送るべきだ」と熱弁を繰り広げる理人さんに呆れていたけれど、今日ばかりは彼の意見に全力で同意したい。 「はー……汗かいた。気持ち悪い……」 「冷えると風邪引きますよ。シャワー行きましょう」 「ん。でもその前になんか飲みたい……」  ぼへえ……と謎の音を吐きながら、理人さんがのそのそとキッチンを横切る。 「あ、麦茶ある。佐藤くんも飲むだろ? コップ取って――」  冷蔵庫を開けた理人さんが、ピシッ……と固まった。 「どうかしました?」  理人さんが石化した理由なんて、本当は分かっている。  でも、俺はわざと知らんぷりした。 「……いる」 「は?」 「うちに〝究極のわらびもち〟がいる……!」  プッ。  いる、ってなんだよ。  まったく、かわいいんだから。 「なんで? なんでいるんだよ……!?」 「もしかしたら、妖精さんが運んで来てくれたのかもね?」 「妖精さん……?」  うわ。  理人さんの口から出ると半端なくかわいいな。 「〝究極のわらびもち〟食べてみたいな~って眺めてる理人さんの姿を見た優しい妖精さんが、こっそり――」 「佐藤くんっ」  ドンッとぶつかってきた理人さんが、俺をぎゅーっと抱きしめた。  そのまま肩口にほっぺをスリスリして、身体を押しつけてくる。  湿ったシャツを通して響く鼓動は、トクトクと速い。  俺は形の良い後頭部に指を入れ、理人さんの絡まった髪を優しくほぐした。 「もう、わらび餅ぐらいで大げさだなあ」 「好き……」 「はい」 「大好き……っ」 「俺も、愛してます」  ハッと顔を上げた理人さんが、ジーッと俺を見つめた後、そっと目を閉じた。  くいっと顎を持ち上げて、ムンッと唇を尖らせる。  ジンジンする心に導かれるようにチュッと口を吸うと、離れていく俺を追いかけるようにゆっくりと目蓋が押し上げられた。  再び覗いたアーモンド・アイの奥で、沸き立ち始めた情欲がチラチラと見え隠れする。  ドクドクと血液を送り出す心臓を自覚しながら、俺は精一杯の平静を装った。 「わらびもち食べないんですか?」 「食べる……けど、あとがいい……」 「なんの?」  理人さんのほっぺが、ぷくりと膨れる。  いぢわる……と口の中で呟くと、理人さんは俺の胸ぐらを引き寄せた。 「セックス、しよ……?」

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