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休息

side 悠 昨日は蒼牙に会えず、電話も掛かって来なかった。 『すみません。明日の朝行って良いですか?』 昨夜そうメールが届き、断る理由なんかないわけで。 仕事は昼からだし、昼食にカレーでも作ってやろうと朝からキッチンに立っている。 『今から行きます。鍵を開けさせて下さいね。』 そうメールがあったのが30分前。 …そろそろ着くかな。 玉ねぎを炒めながら時計を確認するとすぐチャイムが鳴った。 「おはようございます。悠さん」 玄関から聞こえる声。 キッチンから廊下に顔を覗かせ「おはよう。」と返し、俺はまた中に戻った。 「…何だかいい匂いがする。」 キッチンに入ってくると、蒼牙は嬉しそうに隣に立った。 「昼食にな、カレー食って行け。」 …よし、良い色になってきたな。 「やった!…でも悠さん、玉ねぎ焦げてます…」 蒼牙が小さな声で呟くのに笑いが溢れた。 「焦げてるんじゃないよ。『飴色』って言え。これ位炒めた方が旨いんだよ。」 そう言うと蒼牙は「へぇ…」と感心したように手元を見ていた。 「お前、レストランに勤めてんだろ。」 クスクスと笑いながら言うと、「厨房の中は俺の担当じゃありませんから。」と拗ねたように言う。 可愛いヤツ。 思わず手を伸ばし頭を撫でると、その手を引かれて「カレー、楽しみにしてます。」と頬にキスをされた。 …コイツは。 そんな事を言われたら、旨いカレー作るしかないじゃないか。 「もう少しで終わるから、リビングで待ってろ。」 もう一度頭を撫でて言うと、蒼牙は「はい。」と嬉しそうに笑った。 キッチンからリビングに入ると、蒼牙は床に座り込みソファーに寄り掛かって目を瞑っていた。 少し疲れているようにも見えるな。 「大丈夫か?」 ソファーに座りながらそう問うと、ゆっくりと目を開きニコッと笑う。 「大丈夫です。昨日いろいろとあって…あんまり眠れなかったから、ちょっと寝不足なのかも。」 「そうなのか?なら家で寝てれば良かったのに。」 蒼牙の額に手を当ててそう言うと「嫌です。」と速攻で返された。 「悠さんと一緒にいるほうが休まります。」 ソファーに乗り上げながら身体を寄せてくる。 そのまま正面から抱き締めて、耳元に囁いてきた。 「…だから、ちょっとだけ甘えさせて下さい。」 顎を掬われる。 「そう…ン、」 名前を呼び終わる前に、温かい唇に包まれていたー。

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