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感情

side 清司 『俺が付き合っているのはその篠崎悠さんです。』 蒼牙が発したその言葉が俺に信じられないような衝撃を与えた。 あまりのことに言葉が出なかった。 あの白くて綺麗な首筋を思い出す。 消えかけてはいたが、確かに付いていたキスマーク。 …いや蒼牙が残した痕ならば、吸血痕だったのかもしれない。 その事に気付いた途端、あの時感じた苛立ち以上のものが腹から沸き上がり咄嗟に蒼牙を壁に押し付けていた。 驚いたような表情をしたものの、真っ直ぐに目を逸らさず俺を見つめてきた蒼牙。 自分のとった行動に困惑したのは俺の方で、蒼牙から身体を離すと大きく深呼吸をした。 …どうしてこんなにも腹立たしい? あの肌に触れたヤツがいるのだと分かったときの不快感。 はにかんだ顔で誘いを断られた時の苛立ち。 メールが届いたときに感じた安堵。 あの笑顔を思い出せば気持ちが穏やかになる。 こんなの俺は知らない。 今まで感じたことがない感情。 はっきりとしているのは、蒼牙がアイツの恋人だと分かって殴りたい気持ちになったことだけで。 『清司さん、お願いします。悠さんには何もしないで下さい。…俺はあの人が本当に大切で、悠さんに何かあったら多分正気じゃいられない。』 『…俺に貴方を憎ませないで下さい。』 頭を下げそう言った蒼牙は俺の知っている姿とは違っていて、もう子供なんかじゃない大人の男なのだと思わせた。 だったら、俺もコイツにちゃんと向き合おう。 自分の気持ちにまだ答えなんて出てない。 けど一つだけ言えるのは、ここで引くわけにはいかないという強い気持ちが確かに存在しているということ。 だから、ゴメンな蒼牙。 お前の頼みでも聞いてやることはできない。 俺は…アイツが欲しいんだ。

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