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宣戦布告2

「…ッ…!」 いきなりの行動に驚きはしたが、俺は清司さんから目を離さずに見つめ続けた。 清司さんと喧嘩をしたい訳じゃない。 俺は話し合いたいんだ。 「…清司さん。」 胸ぐらを掴む手に手を添え、名前を呼んだ。 清司さんの顔は真剣で、その瞳には怒りなのか、苛立ちなのか解らない揺らめきが見えた。 「……、悪い…」 俺から顔を逸らすと、清司さんは手の力を抜き俺から身体を離した。 俺は自由になった身体をゆっくりと起こすと、まっすぐに清司さんに向き直った。 「…清司さん、お願いします。悠さんには何もしないで下さい。…俺はあの人が本当に大切で、悠さんに何かあったら多分正気じゃいられない。」 清司さんは何も言わずに俺の言葉を聞いていた。 「…お願いです。あの人に何もしないで。…俺に貴方を憎ませないで下さい。」 頭を下げる。 恥ずかしくなんかなかった。 悠さんを守りたい、あるのはただそれだけで。 頭を下げ続ける俺に、清司さんは何も言わない。 ただ黙って見つめ、何かを考えているようだった。 「…蒼牙。」 清司さんに名前を呼ばれ下げていた頭を上げる。 そこにはすっきりしているような、何かを決心したかのような表情の清司さんがいた。 「お前、本当に大人になったな。」 「…え?」 「…だから、俺もお前を同等に扱うよ。」 思いもよらない言葉。 何を言い出す気だ…イヤ、何となく分かる。 この人は… 「悠くんを諦めるつもりはない。」 「……ッ…。」 「悪いな、蒼牙。…でも俺もよく解らないんだが…ここで『はい、そうですか。』って言いたくない、言えないんだ。」 「…清司さん。」 「他のヤツだったら、お前から頼まれれば諦めることができた。…こう見えて、俺はお前が可愛いんだよ。」 それは知っている。 ただ俺がこの人を苦手にしているだけだ。 「だけど…悪い。手を引きたくない。お前のもんだって解ってても」 「……。」 「それに、だいたい端から土俵が違うんだから、俺にチャンスがあっても良いだろ?」 そう言って、清司さんは二ッと笑う。 「…何を、」 言葉が続かない。 清司さんは本当に晴れやかな顔をしていて、今まで見た中で一番カッコよく笑っていたから。 「だけど、卑怯な手は使わないでやるよ。…俺だって悠くんを傷付けたいわけじゃないからな。」 あぁ、やっぱりこの人は… 悠さんに心惹かれているんだー。

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