114 / 347
5月19日 夕
昼食が終わり温泉街をブラついた。
それでも早く悠さんと寛ぎたくて、チェックインの3時丁度に旅館に入った。
仲居さんの案内のもと通された部屋は、室内露天が付いた立派な部屋だった。
「悠さん…ここ、」
想像していたよりもランクの高い部屋に、悠さんを振り返った。
『旅館は俺が選ぶから、祝いをさせてくれ。』
計画を立てる際に悠さんから申し出た言葉を思い出す。
「うん、綺麗な部屋だな。おー露天も立派!」
室内を見て回る悠さんを追いかけて一緒に回る。
「ホント、こんな良い部屋…高いでしょう?」
何だか申し訳なくなって小さく呟くと、クスッと笑う声が聞こえた。
「そんなに高くないよ。それに、あんまり俺の給料馬鹿にするなよ。伊達に大学出てないから。」
そう言って座椅子に座り、仲居さんが淹れてくれたお茶を飲み始める。
「素直に喜んでくれたら、それが一番嬉しい。」
俺を見る目が優しく細められた。
「…はい、ありがとうございます。」
嬉しくて、座った悠さんの体を横から抱き締めた。
「ん、それと…。」
悠さんは俺の腕から逃れると、部屋の隅に置いていた旅行鞄から何かを取り出した。
「…蒼牙、誕生日おめでとう。」
言葉と共に突き出された小さな箱。
「あ…ありがとうございます。」
ビックリしてしまい、受け取るのが一瞬遅くなってしまった。
旅館だけでも充分なのに、まさかプレゼントまで準備してくれていたなんて…。
嬉しすぎて目の前の悠さんを強く抱き締めた。
「本当にありがとうございます。」
「…ンッ…」
瞳を見つめお礼を言うと、そのまま優しく口付けた。
チュッ、チュッと吸い付くと、悠さんの唇が僅かに開かれる。
直ぐ様舌を差し込み、深い口付けに変えた。
チュクッ、チュッ、ピチャ…
舌が触れ合う音と背中に回された手の温もりに、身体が熱くなっていく。
「ンッ…ハァ…蒼牙、開けないのか…?」
押し倒そうとしたその時、悠さんが囁き我に返った。
「…すみません。あまりにも嬉しくてガッツイちゃいました。」
ゆっくりと身体を離し、プレゼントを手に持つ。
リボンをほどき、丁寧に箱を開けていった。
「…ッ…凄く、嬉しいです。」
中を確認し、それを取り出しながら悠さんを見つめた。
俺の手の中には、蒼い文字盤の趣味の良い腕時計が光っていたー。
ともだちにシェアしよう!