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遭遇2

コンビニで篠崎さんに出会い、思わぬ形で悠さんのアパートに来ることになった。 久しぶりに来たアパートの玄関を篠崎さんが開ける。 ただそれだけのことが俺の気分を黒いものにさせた。 そして部屋に入った時···俺の気分は最悪なものに変わっていた。 悠さんの部屋が篠崎さんの香りで満ちている。 それを認識した途端、俺の口から舌打ちが漏れた。 ····認識が甘かった。 弟だからと油断していた自分に腹が立つ。 このままではダメだ。 でもどうしたら良い? 悠さんにとっては大切な弟だ。 下手に話せば悲しませるだけだろう。 そんな思いに頭を悩ませていると、キッチンから篠崎さんが戻ってくる。 「兄さんが帰るまでまだ時間があるし、ちょっと話でもしようか。」 篠崎さんがソファーに座りながらそう言って俺を見た。 別に話すことなんかないが、黙っているわけにもいかない。 「···そうですね。」 表面上はにこやかに答えながら、互いの様子を伺う。 仕事のことやファッション、年齢や出身など他愛もない会話が続く中、篠崎さんが急に話題を変えてきた。 「···で、秋山くんは兄さんの何?」 それまで視線を他所に向けていた俺は、その言葉で篠崎さんを直視した。 笑って話をしていた時には見せなかった真剣な表情。 その瞳の奥には静かな怒りの炎が燃えていて···これがこの人の本心なのだと、そう思わせた。 「恋人ですよ。···気付いているのでしょう?」 コンビニで俺が確認した時、篠崎さんも俺の名前を知っていた。 それは悠さんが俺の話をこの人にしていたということで。 そしてあの視線。 あれほどの敵意を感じるのは、俺が悠さんの恋人だと知っていたからに違いない。 篠崎さんが黙ったままこちらを見るのを、俺も視線を逸らさずに受け止めた。 やがて先に口を開いたのは篠崎さんで、小さな声で呟いた。 「···もっと取り繕うかと思ったら、ずいぶん潔いね。」 ソファーに凭れながらそう言うと、篠崎さんは深い溜め息を吐いた。 「悠さんと付き合うことに、恥ずかしさや後ろめたさなんかありませんから。」 はっきりとそう言うと篠崎さんは少し目を見張り「へぇ、言うね。」と笑った。 そのまま互いに言葉を発することなく、ただ時計の針の音だけが響く。 重たい空気の中、篠崎さんの香水の匂いが鼻についた。 まるで自分の存在を主張するかのようにこの部屋に漂う香りが、俺をイライラとさせる。 「···ねぇ、大好きな人が奪われたら君ならどうする?」 やがてポツリと呟かれた言葉に、弾かれたように顔を上げた。 そこには何かを企んでいるかのような篠崎さんが不敵に笑っていて、心がざわついた。 ···何を企んでいる? 「そんなに警戒しなくても、兄さんを傷付けることはしないよ。」 クスクスと笑う姿に、ますます顔が険しくなるのが自分でも分かった。 「俺ならね、とりあえず邪魔するかな。それでヒビが入るような関係ならそれまででしょ?」 そう言うと篠崎さんが立ち上がる。 ゆっくりとしたその動きに気をとられて、外の気配には全く気付かなかった。 「···兄さんのうなじって綺麗だよね。流石に我慢できなかったよ。それと耳。あんなに弱いとは思わなかった。」 「なっ!!」 俺の耳元に口を寄せそう囁くと篠崎さんは思いもよらない行動に出た。 囁かれた言葉に頭がカッとなった俺の胸ぐらを掴むと一気に顔を寄せる。 その時、 「ただいま。蒼牙来てるの、か···。」 扉が開く音と、悠さんの声。 同時に唇に感じる熱と強まる香水の匂い。 何が起きたのか理解する間もなく、扉が閉まる音が響いたー。

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