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The Doctor's Diary-004

二〇七一年 十二月 ●日  アルの軽いいびきが、ウッドデッキに規則的に響いている。  ただでさえ仕事で疲れているのに、昨夜はよく眠れなかったらしい。ベッドよりもカウチで寝る方が、リラックスできるのだと言っていた。  幸いベンジャミンは庭の木登りに夢中で、今はカウチに興味を示していない。  背の高いビワのてっぺん近くまで登って、頭上を飛ぶウミネコに、カカカッと牙を鳴らしている。クラッキングといって、猫にとっての狩猟対象が見えているが手が届かないといった状況で、よく見られる鳴き方だ。  この十年、私もしばしば眠れないことがあった。ベンジャミンと同じベッドで眠ると、不思議と熟睡できるのだが。  一緒に眠る時、彼は私に抱き付いて、ゴロゴロと喉を鳴らす。それがどんな睡眠導入剤よりも、効くのかもしれない。  先日、ベンジャミンが怖い夢を見たと言って三人一室で眠った時、眠りの浅い私はアルがうなされているのに気が付いた。  だがアルは、一人きりでこの広大な家に住むようになった過去を、話した事はない。そして私も、また。  だからここで彼を起こして、うなされていたぞと告げるのは間違っている気がした。暗闇の中でぽっかりと目を見開き、いつもは平和そうに見えるアルが、すすり泣くのを聞いていた。  ベンジャミンの貸し出しでも始めたい気分だが、そうすると、私が彼の秘密を知っていることが明らかになってしまう。  彼の秘密、私の秘密。ひとには、それぞれの秘密がある。それを暴いてしまうのは、ひどく無粋だ。  いつか彼が話してくれたら、私も話せるだろうか。呪われた二年間の秘密を。

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