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第1話

 コール五回目で電話をとった。 「もしもし、佐々木です」 「将太か、荷物送ったから受け取ってくれ」  前置きもなく、兄が言った。 「兄ちゃん、今度は何だよ?」 「髪飾りとかタペストリーだ。十枚ほどだから、広げてきれいに写真撮ってホームページに上げてくれ」  ほんの少しのタイムラグの後、受話器を通してすこしざらついた兄の声が聞こえる。中国からの国際電話はいつもこんな感じだ。 「うーい。いつ頃届くの?」 「順調に行けば二週間後かな」 「ふーん、わかった」 「じゃ、頼むな」  あっという間に電話は切れた。  兄からの電話はいつもこうだ。  俺は子機を戻すと、一階に降りた。  平日の昼間、家には誰もいない。父親は会社に行くし、母親は週に四日はスポーツクラブに行っている。と言っても運動しに行くわけじゃなく、インストラクターとしてヨガを教えている。  だから、この時間に電話を取るのは俺だと兄はわかっていて、あんな調子で一方的に用事を言いつける。  冷蔵庫から母親が作っておいてくれたサラダと唐揚げを出し、トースターに食パンを入れた。時計はもう十一時で、腹も減るはずだと思う。  コーヒーをいれてダイニングテーブルを見たら俺宛の封書が置いてあった。ざらざらした紙質の悪い茶色い封筒。中国からのエアメイルだ。  兄の字で大きく佐々木将太収と書いてある。日本向けなんだから収じゃなくて様なのに。兄は時々、中国の漢字と日本の漢字が混ざっている。  これはこの前届いた商品の取扱い書類だろう。あとで確認することにして、まずは食事にした。  それにしてもタペストリーってどの程度の大きさなんだか。  きれいに写真を撮ってと兄は簡単に言うが、大きい物は広げる場所にも苦労するのに。模様を見せるためにはきちんと広げないといけないし、大きさによっては画面に入りきらない。写真を撮るのは意外と大変なのだ。  兄はもちろんそんなことに頓着するはずはなく、気に入った物を買い付けては好き勝手に送りつけてくる。  よくあんな兄が会社をつぶさずにいるなと毎度ながら感心する。

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