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第12話
来月にはその辺りの商談をまとめるために、兄が久しぶりに一時帰国する。
俺はできる限り、この機会に溜まっている事務処理をしてもらおうと書類を作っていった。
いつの間にか、貿易事務も関税処理も確定申告もできるようになってしまっている。
とはいえ、雑用や経理は俺がやってもいいけど、今後は誰か支店長的な人を置いてもらいたい。
最近はメールだけでは済まないような案件も増えてきて、正直言って俺の手には余るのだ。
それも相談しないとと思いながら、兄の帰国を待った。
「将太、明日は名刺持てよ」
「え、俺も行くの?」
「当り前だろう。東京にはお前しかいないんだから」
それもそうか。こっちの責任者が一人もいないんじゃ、契約相手に不安を与えるよな。
でも俺みたいな身内のアルバイトじゃ、話しにならないだろうに。
今回の取引相手はアジア雑貨をメインに扱うセレクトショップで、そこの社長もまだ三十手前と若かった。やはり留学経験者で、中国語も英語も話せるスマートな雰囲気のイケメンだ。
「へえ、東京の総経理はずいぶんと若いんですね」
同じく総経理の名刺を出してきた取引先の社長はそう言って、親し気に俺に笑いかけた。
「ええ、まあ。総経理って言うか、アルバイトみたいなもんなんです」
一人しかいないのに恥ずかしいじゃんと思いながら返事をする。
「俺も似たようなもんですよ。社長なんて肩書つけても、車の運転から仕入れから経理まで何でも自分でやりますからね。お互い、頑張りましょう」
そして俺は、その名刺交換の場で初めて知ったんだ。
総経理っていうのは、中国語では「社長」を意味する単語なんだってことを。
つまり俺は、最初から社長の肩書の名刺を持たされていたんだ。
兄ちゃんの大嘘つきーーーー!
アルバイトって言ったくせに。なんだよ、社長って!
それは俺が総経理の名刺をもらって、2年後の夏のことだった。
完
お久しぶりの北京シリーズです。
主人公はぞぞむの弟、佐々木将太くんです。本編でも名前はちょくちょく出てきてましたが、本人は初登場ですね。
兄に巻き込まれている将太ですが、たくましく頑張ってほしいですww
ちなみに、今後も中国に来る予定はない人です。
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