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第39話 One year after story

歩の仕事が終わるまで、ドームの中でゆっくりしていようとベッドに横になる。 フォルスの名が知れ渡り、辻堂自身も更に忙しくなった。同じ時期に歩の仕事も忙しくなっている。歩は自身でアレンジしているから、頻繁に打ち合わせを含む仕事で外を飛び回っている。 歩は、自分の持つギフトを使い人を育て、次世代にまで繋げていくことを考えている。ブラン共和国での一件があり、その後辻堂と一緒に暮らし始めてから、そう考えるようになったと言っていた。 忙しさから自然と二人の生活に、すれ違いが生じてくる。 仕事をしていれば、社会人であれば普通の忙しさかもしれない。しかもお互いがやりがいを感じている仕事なので、尚更嬉しい忙しさだ。 だが、プライベートとなると話は別である。以前は忙しくても、同じ場所で寝起きし、歩とは朝か夜には顔を合わせることが出来ていたが、最近はそれも難しくなってきている。 だから少し無理をしてでも時間を作って、歩と過ごせるようにしたいと辻堂は考えていた。 ドーム内のベッドに横になり、うつらうつら考えていたら、いつの間にか寝ていたようだ。人の気配がして起きた。 「伊織さん、疲れましたよね?大丈夫ですか?」 歩がベッドに腰掛けており、目が合った。 辻堂は歩の腕を引きベッドに沈めた。久しぶりの歩の唇にガブリと噛みついてしまいそうになるが、何とか抑えて軽いキスをした。 「歩…久しぶりだ。会いたかった」 「伊織さん、来てくれてありがとうございます」 唇と首筋に何度もキスをする。歩の首筋は好きだ。キスをすると吸い付いてくるような感じがする。 「い、伊織さん、明日も仕事するからキスマーク付けないで」 「見えないところならいいだろ?」 完全に目が覚めたので、下で抵抗している歩の服をたくし上げ、胸の周りにキスをし始める。 歩はキスマークを付けられてると最近はわかるようになり、仕事の前には注意をするようになった。辻堂は歩から言われるといつも苦笑いをし、服で隠れるところにキスマークをつけていた。 「ディナーの時間!そうです、ディナーの時間です」 ほら、と歩に言われ一瞬躊躇した隙に、スルッと下から出てベッドの上に座られてしまった。ベッドに座る歩はニコニコとしている。 「…わかった。でも今日からここで一緒にいられるだろ?」 「それはもちろん!大丈夫です」 最近、歩の手の中で転がされてるような気もする。 以前であれば辻堂主体で動くのが当たり前であったが、今はやんわり断ったり、はっきり主張してきたりと、歩も使い分けているようだ。 だが、辻堂はそんな歩も好ましいと思っていた。甘えてくるのも、はっきり主張するのも好きな人にされれば嬉しさを感じる。 ドームテント前にディナーの準備が出来ていた。外での食事は開放感があり心地いい。 「で? 1週間帰ってくるのが伸びた理由は何なんだよ」 「やっぱりまだこの国のカルチャーが理解出来てないところがあって…彼らも不安そうだし。後1週間にオープンするからそれまでいて欲しいって言われてるんです」 「あれだろ?ブランの言語ギフトの人達だろ?ここで通訳して働いてもらうのか」 「そうなんです。ブランの人達は国の外に出たのも初めてだし、通訳や、その他の仕事も初めてなので…その辺をもう少し伝えようかなって」 政府が異文化交流を打ち出し、この国とブランとの交流を現在進めている。この話は、ブラン共和国もかなり乗り気で、人材交流と派遣業、それに観光業に力を入れていた。 その第一弾として、言語ギフトを持っている人が優先的にそれぞれの国へ渡り、働く環境の基盤を作っている。 通訳としてフリーになり、歩はその橋渡しをしていた。そこで感じたのだろう、ただ単に人が行き来するだけではなく、異国で働く人達にフォローが必要だと歩が言い始め行動に移した。 言語ギフトを持っている者なので、会話は問題なく意思の疎通はできる。だが、お互いの国のカルチャーは、すぐに全てを理解することはできない。働くということであれば尚更である。 通訳とは、ただ言葉をその国の言語に訳すだけではなく、働く場所での専門的な言葉、ニュアンス、など含めて理解し伝えなくてはいけない。 通訳として人の思いを伝える、どんな状況でも伝えたい人達の間に入り、その人の価値観に寄り添って良好な人間関係の実現に貢献すること。それは大変重要な役割だということを、ブランの言語ギフト保持者の人達にも伝えていきたいと歩は言う。 「ブラン共和国の文化を体験することができる施設が、ここにオープンするんです。今はオープン前なのでブランから来た人達はその準備をしたり、後はここの人達と交流したり。あ、今日みたいに結婚式の仕事を少し手伝ったりしてもらってるんです。会話が出来る人がいるので、全体的にはスムーズに進んでるんですけどね。それでもちょっとしたことがまだわからないみたいで…」 「なるほどな。ちょっとしたことって、本人にとっては大きなことかもしれないからな。それにブラン共和国の人気は今すごいだろ?未知な国が知れ渡ったから、世界的に人気が出始めてるってルカが言ってたぞ」 ブラン共和国の国王であるルカとは、プライベートでもかなり仲良くなっていた。辻堂とルカは連絡を頻繁に取っているほどだ。 「そうなんですよね。ブラン共和国を知りたいって人が大勢いるようで、新しく出来る施設の問い合わせとか、多く入ってるようなんです」 歩の特殊ギフト保持者特有の症状は現在治まっており、日常生活に問題はないため、精力的に仕事をしている。今ではギフト障害から夢精することもないだろう。少しさみしい気持ちもする。 「伊織さんは?政府と一緒にやる仕事も多いし、忙しいでしょ。大丈夫でした?」 「仕事は問題はない。順調に進んでいる。だが、俺のプライベートは問題だ」 歩をベッドの上で抱え直したら、もう、と言って歩は苦笑いをしている。 「今日から一緒に寝てくれるだろ?」 歩は嬉しそうにこくんと頷いた。

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