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家でじっとしているとあの糞魔法使いにされた事を思い出してしまって死にたくなるので、気を紛らわせる為に私物の槍を持って城下町の外を歩いていた。 魔物でも出て来たら良いのに。八つ当たりでぶっ刺しても良いし、「兵士の尻一つぐらい別に良いだろう」ぐらいのノリであの最悪な頼みを承諾した奴らへの嫌がらせで挑発した魔物を街の中へ呼び込んでも良い。 積極的に他人に害を与えたい程俺は機嫌が悪かった。 「なあお前、その、大丈夫か?」 「は?」 「主にケツは」 そんな状態の俺を見付けて地雷を善意で踏み抜きに来た友人の空気の読めなさは表彰ものだと思う。 「大丈夫だと思ってんの?」 「全然大丈夫じゃなさそうだな」 「当たり前だろ」 「いてぇな! 槍の柄で小突くな!」 どうせ大して痛くもない癖にうるさい。 「こんな街の外れで何してんだ? 門番の仕事はどうしたんだ」 「休職中」 「あの仕事って休み取れたんだな。なら尚更なんでそんな物騒な物持ってここにいるんだよ」 「街に魔物でも誘引してやろうかと思って。ちょっとぶっ刺して挑発すればすぐ乗ってくるだろ」 「いや……普通に止めろ? 気持ちは分かるけど止めろ」 ◇◇◇ 友人に促され渋々自宅に帰ってくると何故か玄関の鍵が空いていた。 不思議に思いつつもたまたま閉め忘れたんだろうと納得しながら中に入ると、ベッドで見覚えのある不審者が寝転がっていた。 「僕はね、君が周囲からの好奇の目や心無い言葉に耐え切れずに門番を辞めて、家に引き篭っている内にお尻への刺激が恋しくなって僕の所にやって来るのを楽しみにしてたんだよ。 だと言うのに君と来たら休職届を叩き付けた挙句にその辺の魔物に八つ当たりして槍で滅多刺しにしてストレスを発散してる。僕のわくわくを返してくれ」 まるでこちらが悪いとでも言いたげな口振りで話すこいつの性格を最悪以外の何と形容すれば良いんだ。 「何を人の家で我が物顔でくつろいでるんだよ」 「槍を向けないでくれ。先端恐怖症なんだ」 魔法使いが手をかざすと向けていた槍の先が突然ぐにゃりと飴細工のように曲がった。魔法なのだろうと分かってはいても、その光景の気色悪さと驚きで思わず手放して床に落としてしまった。 魔法使いはのそりと起き上がる。 「僕はご存知の通り真面目なのだけれど」 「全くご存知じゃない」 「魔物をね、国から頼まれた通りせっせと真面目に狩ってたんだ。結構な数を狩ったから、これは褒めてもらわないとと思って、 狩った魔物の首全部持って王さまの所に行ったんだ。それはもう手放しで褒めてくれたよ」 「猟奇的な不審者を早く追い返したかっただけだろ」 「それでね? また君のお尻使わせて欲しいって頼んだら二つ返事で了承してくれたんだ。だから迎えに」 言い終わる前に、槍を拾い上げて投げ付けたけれど、魔法使いに当たる前に何も無い空間で弾かれて床に落ちただけに終わった。 「僕に対する殺意が高過ぎないかい。友人相手では柄で優しく小突く程度なのに」 「なんで知ってるんだよ」 「僕魔法使いだよ? 気になる相手の周辺情報ぐらい四六時中リサーチしてるに決まってるじゃないか」 「そういうのをストーカーって言うんだよ」 「あはは、魔法が達者だって言ってくれ」 使い所を間違ってる。

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