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ハッピーハロウィン5

マントをそばの椅子に置いてから優斗さんは俺に向き直って手をとる。 「今日の捺くんの格好って天使っていうより……可愛い花嫁さんみたいだね?」 俺の格好を見つめて柔らかく笑う優斗さん。 そう?、と訊き返しかけて止まった。 「え? は……なよめ……?」 「うん。だってほら真っ白なドレスだし」 「でもミニスカだよ?」 「ベールもある」 優斗さんの手が俺の髪に飾られた小さなベールに触れた。 「それにブーケも」 「ブーケ?」 それって結婚式とかで新婦が持ってるやつだよな。 そういや俺、実優ちゃんの結婚式のとき何故かもらっちゃったんだけど。 ……確かにサイズは小さいけど言われてみればブーケっぽい。 っていまさら手にしてる花束が新婦が持つブーケってやつなのかもって気づいた。 「そうなんだ……。でもなんでブーケなんて」 「花嫁さんのコスプレだったんじゃな? 衣装も実優たちが用意したんだし」 「えー……でもなんでまた。俺男なのに」 なんで俺に女装させたがるんだろう、って口尖らせた。 そしたら急に優斗さんが吹きだして、なに、って視線を合わせると微笑み返される。 俺の手を握ってる優斗さんの指が動いて俺の指をなぞる。 その指がおそろいのペアリングを確かめるように撫でた。 「嫌なの? 花嫁さん」 「だって俺男だよ? だいたい誰の……」 言いかけて、アレって思って、詰まった。 アレ? もしかして、アレ? 一気に顔が熱くなってくのがわかる。 その間も優斗さんの指は俺の指輪を撫でている。 バカみたいに心臓の動きが早くなってきて、視線を泳がせた。 「捺くん」 「……なに?」 少し声が上擦った。 いやだってさ。だってさ、もし俺の格好がそうだったとして……。 いやあの、俺はずっと優斗さんと一緒にいるんだけど。 いやだって、だってそういやここってさぁ。 誰のって問い返されてたら、たぶん声裏返りそうだけどちゃんと答えられる。 けど、単純にすっげぇ恥ずかしいんだけど! ちらっと優斗さんを見れば俺をまっすぐに微笑みを浮かべて見てる。 気恥ずかしくてどうすりゃいいのかわかんねぇ。 優斗さんは何故か黙ったまんまで。 俺が何か言った方がいいのかな、って思った瞬間、ゆっくり優斗さんが口を開いた。 「―――誓います」 ぽかん、として不意に落された言葉にまじまじと優斗さんを見る。 脈絡ない言葉。 え、なにを。どうしたんだろう。 誓いますって、聞いたことあるけど。 結婚式で神父さんが言って……。 え、あれ―――。 「……っ」 バカな俺はさんざん逡巡して気づいて、今まで以上に顔が熱くなるのを感じた。 な、なんで優斗さんって……さらってすごいこと言っちゃうんだよ。 心臓が耳のあたりに来てんじゃねぇのかってくらいに鼓動がうるさい。 優斗さんを見てられなくって視線を落としたら繋いだ手が映った。 絡めた指、俺の指にも指輪あるけど、もちろん優斗さんにもあって。 「……俺も」 ちょっとづつ視線あげてく。 心臓バクバクさせながら、優斗さんと視線を合わせる。 「……誓う……よ?」 うあああ、俺のヘタレ!! なんで疑問形で終わらせた! 「ち、違う。ち、ち、誓います……!」 慌てて言い直す。 途端、優斗さんが吹きだして、ダッセェ自分に恥ずかしさMAXで顔が真っ赤なって、そして。 「―――」 優斗さんが俺の頬を撫でて、キスした。 *** それからふわふわした気分で部屋に戻って。 すぐに抱き合って、互いの熱をわけあった。 「捺くん――」 荒い息を吐く俺の耳元で囁かれる言葉。 俺も笑って絶頂へと押し上げる波に揺られながら優斗さんの耳元で同じ言葉を囁いた。 【優斗から捺へ―――end】

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