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また、ここで 7 side優斗
「お誕生日おめでとう、優斗さん」
「……」
デザートプレートにはHAPPY BIRTHDAYと書かれていた。
なんで、どうして、と頭の中が疑問でぐるぐるする。
「なんで」
「一昨日さ、病院で目が覚めたとき優斗さん今日から10月って言ってたよね。てことは今日は10月3日で、誕生日でしょ」
そう―――だ。
10年の歳月が流れていたけど、俺の記憶は21歳の……そう、10月で。
6月だと言われて昨日今日で納得したつもりだったのに。
本当のいまは俺は33歳だけど、でも。
「……ありがとう」
俺の時間で言えば、自分の誕生日なんてどうでもよくて。もう姉さんにも義兄さんにも……入院している実優にも祝ってもらうこともないし、考えないようにしていた日。
「はい、プレゼント」
いまの俺は俺だけどそうじゃないイレギュラーな存在だって理解していた分、予想外すぎて驚きすぎて、だから。
「開けてみて? 気にいってくれるといいけど」
ラッピングされた小さな箱。
俺はまだ驚きから抜け切れてなくて黙って頷いてそれを開けた。
中にはシルバーと革のブレスレットが入っていた。
シルバーのハーフバングルに革のブレスレットが組み合わさっている。
「かっこいい」
「でしょ? ブレスレットとかあんまり付けないかなって思ったんだけど、たまにはいいかなって」
確かにアクセサリーはほとんど付けない。けど、でも、嬉しい。
「うん。着けるよ」
「俺に着けさせて」
手出して、と捺くんに促される。俺の手首にひんやりとしたシルバーと革のブレスレットが着けられる。
「……ありがとう。本当に、ありがとう」
―――早く記憶を取り戻さなきゃいけない、迷惑がかからないように。
そう心の底で思っていた。
「捺くん、ありがとう」
だから、記憶がないのに、21歳の俺なのに、本当は違うのに、こうして祝ってくれて鼻の奥がツンとした。
捺くんが笑顔を向けてくれてるから、俺も笑みを浮かべてブレスレットを撫でて、そしてケーキを食べた。
とても甘くて、とても美味しかった。
***
「遅くなっちゃったね」
食事を終えて、ドライブをしていた。
もう一か所寄りたいところがあると行って捺くんが運転している。
一応実優には遅くなると連絡をいれていた。
ゆっくりしてきてと言われ、捺くんと居るのは楽しいから素直に嬉しい。
「明日は休みだし、平気平気」
捺くんは金曜なんだから夜更かし当然だよ、と屈託なく笑いながら車を停めた。
「着いたよ」
そこは駐車場で海の近くだった。
「公園があるんだ。行こう?」
「うん」
ドアを開けると潮の香りがする。
終始曇り空だったけど結局いまも雨はふることはなく、月や星のかわりにネオンが瞬いているのが綺麗だった。
デートスポットだろう遊歩道をふたりで歩き、途中ベンチで休憩することにした。
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