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RED×BLACK 1
とある居酒屋の個室にふたりはいた。
一方は壁際に座って顔を背けて壁を睨むように見ている。
もう一方は携帯でメールを作成していた。
テーブルには飲みかけの酒が中途半端に残っている。
それは壁際にいる男――黒崎修悟のものと、いまはもういないもう一人のものだった。
会計はさっき出ていった友人が済ませたはずだしふたりはこれ以上注文するつもりもない。
重いのか軽いのかわからない沈黙の中でカチカチと携帯を操作する音が響いていた。
しばらくしてパタンと閉じる音が聞こえ、次いで、
「クロ」
と呼ぶ声がした。
だがクロと呼ばれた修悟は明らかに無視をした。
それを見て呼んだ方――光谷朱理はとくに気にした様子もなさそうだ。
「クロ、出ようか」
「……」
またしても返事はなく、今度は仕方ないなという感じでため息をつき朱理は立ちあがった。
「クロ?」
「……」
「ここでスる? 俺は別にいいけど」
「……っ」
びくりと肩を跳ねさせた修悟は勢いよく朱理を見上げ、
「こんのクソ変態!」
と唸る。
「恋人とセックスするのがなんで変態になるの」
「ここでとか言うからだろーが!」
「そんな場所で無理やり友人の恋人にキスしていたお前は? 変態以下の猿?」
「……」
ムッと顔をしかめ修悟は再び顔を背けた。
修悟の耳に朱理の足音が静かに響いてくる。
無言の圧力を感じて修悟は内心びくつきながらも顔を背けたまま。
だけど頬づえついた修悟の、頬に添えられている指に力がこもったのを朱理は見逃さない。
「クロ」
傍に立ち、膝をつくと修悟の肩に手を置く。
「……」
「クロ」
「……」
「もう一か月加算する?」
なにを、と訊くまでもなくそれは"お仕置き期間"を指すもので。
「はぁ!? 冗談じゃな――ッ」
挑発なんかじゃなく真実そうしようかという提案でしかない朱理の言葉に慌てて修悟は振り向く。
途端目が合い、次の瞬間には口を塞がれてた。
「……ッ、く」
強引に侵入してくる舌。
咥内を荒らすこともなくすぐに修悟の舌を絡め取る。
朱理の身体を押しのけようと修悟がその肩を掴んで押すが、一見細い身体が実は修悟以上に鍛えられているためにそれは叶わずに、逆に壁に押し付けられ一層激しく舌を吸い上げられ舐めまわされる。
普段の冷静さに反比例するような情熱的なキスが―――修悟を煽るためのものだというのは修悟にもわかってる。
むざむざと反応したくはない。
なのに修悟にとってのキスおよびセックスのすべては朱理が全部教えてきたものだからあらがえるはずがない。
くそ!!、と内心毒づきながらも無意識でもなんでもなく自らも噛みつくように朱理の舌に舌を巻きつけた。
ざらざらと舌が擦れ合い唾液を渡らせる。
執拗なキスは身体を熱くするには充分で、廊下を歩く足音が響いてきたのをきっかけにようやく離れたときには修悟の下半身は緩く勃ちあがっていた。
肩で息をしている修悟の耳朶を噛み、朱理は低く囁く。
「ほら、ホテル行くよ」
「……ちょ、待て」
一旦落ちつかせろ、と睨むが朱理は薄く笑って立ちあがった。
「さき行くよ」
「待てって!」
イライラとしながらもしょうがなく前かがみで修悟も立ち上がる。
「おい!」
「うるさい」
「ホテルじゃなくて家がいい」
「却下」
「おい!」
ぐだぐだ言ってくる修悟をスルーし、朱理は居酒屋を出るとホテル街へと向かって行ったのだった。
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